六華だより

台風被害を乗り越え、みんなが集う豊かな森に ~ 学校林は今 陣内理事に聞く

第94号

取材 六華だより編集委員
佐藤元治(南38期)

 母校・札幌南高校から南東へ12km余り。白旗山の一角に、100年以上にわたる歴史を刻む札幌南高等学校学校林がある。現在は一般財団法人札幌南高等学校林が中心となり、魅力ある森を後世に伝えようとしている。そんな中、昨年9月の台風21号と翌日の最大震度7を観測した北海道胆振東部地震では、学校林も大きな被害を受けた。昨秋には有志が集い、なぎ倒された木々を片付け、ふさがれた林道を開通させる作業が早速行われた。昨年12月、冬ごもり前の学校林を訪ね、〝木こりミュージシャン〟として学校林の森作りと音楽活動を行う財団法人理事、陣内雄(じんのうち・たけし)さん(南35期)に、学校林の現状と将来について伺った。

 雪が積もった林道を車でしばらく進むと、静寂の中からチェーンソーの音が聞こえてきた。
樹脂のにおいというのだろうか。独特の芳香が当たりを支配する中、3.6mほどに切りそろえた木材が、うずたかく積まれていた。カラマツとトドマツ。太いのは製材用、細いのはパルプ用として出されるそうだ。それらの木を握るように動く重機。グラップルと呼ばれ、ショベルカーのショベルの代わりに、手のような器具がついている。作業は毎日午前6時半から午後4時まで。夏は、明るいうちに作業を終えられるので、その後を機械整備の時間に充てるそうだ。
ものすごい量の木材に見えるが、それでも前年の半分ほどという。「台風でメチャメチャに倒れた木を片付けるには、相当の手間がかかるんですよ」。作業の手をとめた陣内さんが口を開いた。
鬱蒼とした学校林の姿は、素人目には何百年も代わらないように見えるが、ここは1911年(明治44年)から人の手で植えられてきた人工林だ。「当時は、山火事の後で、一面の笹原だったそうです」。

切り出され、林道の脇にうずたかく積まれた木材。右の重機がグラップル

人工林はいわば畑。ただし、1年で実りを迎える作物ではない。陣内さんが教えてくれた。「カラマツ40年、トドマツ60年、アカエゾマツ80年と一般的には言われています」。生徒による学校林作業は、母校の伝統行事。枝打ちや間伐といった手間をかけ、大きく育った木は、戦時中の木材供出で伐採された。今の森は終戦後から培われてきたものだという。筆者も高校1年生だった1985年、枝打ち作業を行った。下枝を棒でたたき落とす作業は、それなりに快感だったと記憶している。今は1年生が2人1組でノコギリを使い、ネマガリダケの笹藪を根元から切り払う作業を行っているそうだ。
台風被害の大きかったのは東側斜面。「窪地に吹き込んだ風が木々をなぎ倒していったのです」。特に被害が目立ったのはトドマツ林。間伐が遅れ、全体的に細めになっていた木がダメージを受けた。林道に覆い被さったものは切断して搬出したが、林の中はまだ入れない状態だ。「斜めに寄りかかっている姿をみると『早く何とかしたい』と思うのです」

台風でなぎ倒された木々。窪地に吹き込んだ風が被害を大きくしたという

学校林は、六華同窓生の共有財産だ。「先日、『高校生の時に作業して以来だ』という70代の先輩方が、森を訪ねてくれました」。「造林育人」の石碑前で写真を撮り、思い出話を弾ませていたという。陣内さんは続ける。「高校時代の思い出といっても、校舎は時代で建て替えられていくし、先生方もいずれは交代する。でも、ここの雰囲気はそう変わらない。ふるさとの森であり続けるのです」

今もその年入学した生徒たちが1日がかりで学校林作業に精を出す。2人1組でノコギリを使い、地面を埋めるように映えるササ(ネマガリダケ)を、根元から切り払い、土が見えるような場所にする。「実生(みしょう)の森にしたいのです」。実生とは、苗木ではなく、種から育つ状態のこと。「この土地に最も適した木が芽を出し、育つことが、この地に一番ふさわしい森を生むのです」。
 これまでの人工林は、同じ樹種を一斉に植え、皆伐することで木材を生産してきた。「こうした植え方は、管理は楽だろうが、変化に弱い」。陣内さんは、樹種も年代もさまざまに混じり合っていた方が、後世まで続く森になると語気を強める。
次世代の森づくりに向けては、〝木こりフォトグラファー〟の足立成亮(あだち・しげあき)さんが、陣内さんとともに作業に携わっている。足立さんの得意技は、作業用の軽トラックが通れる道を、森を壊さずに作っていくことだ。「本当に素敵な道なんですよ」と陣内さん。幅約2m。通常の林道より狭く、軽トラック1台が通れる道を編み目のように張り巡らせることで、それぞれの木の状況に応じた世話が可能になるという。

「森も人も多様性が大切」と語る陣内雄さん(右)。左は足立さん

 森づくりに関わる同窓生をもっと増やしていくことも必要だ。「近くにいて良く通ってくれる人。数年に1度かもしれないが、ふるさとを感じてくれる人。ここは、同窓生みんなの森。いろいろな人に来てほしいですね」

<学校林については以下のリンクもぜひご参照ください>
一般財団法人北海道札幌南高等学校林 公式サイト
http://www.rikka-forest.jp/

札幌南高校学校林ファンクラブ
https://www.facebook.com/RikkaForest