札幌市避難場所計画について
佐藤 邦昭(南38期)
私は、札幌南高校から北海道大学工学部建築工学科、北海道大学大学院建築工学専攻へと進学後、平成7年に地元札幌市の建設コンサルタント(都市計画及び地方計画が専門)に就職しました。建設コンサルタントとは、建設プロジェクトの企画、立案、事前調査、調査、設計、施工管理等の一連の技術サービスを提供する専門家です。平成12年から現在の会社の立ち上げに参画し、現在は代表に就任して6年目となっています。20年以上に渡り北海道及び青森県内の自治体から委託を受け、様々な計画策定のお手伝いをさせていただきました。今回は、私が関わっているものの中から、札幌市の避難場所基本計画について紹介させていただきます。
札幌市はこれまで平成25年度に策定した「札幌市避難場所基本計画」に基づき、避難場所に求められる機能や備蓄物資の整備を進めてきました。当計画は、東日本大震災における避難所の寒さ対策や物資不足の課題を受け、「札幌市地域防災計画」に基づき作成したものです。月寒断層地震による発生当日の避難場所避難者数を11.1万人と想定し、支援対策の拠点となる避難場所について、備えるべき機能目標を設定し、その整備方針を定めています。
具体的には、寒さ対策として「寝袋、毛布を1人につきそれぞれ1個・1枚確保(より保温性の高い札幌式高規格寝袋に更新)」、「移動式灯油ストーブにより暖を採る場所を確保」、食料対策として「1人当たり2食分の備蓄(後に3食分に増強)」、「可能な限りアレルギー対応食品を備蓄」、「トイレ対策として簡易便座・排便収納袋・便凝固剤の備蓄」等を定めています。
こうした中、今年度は策定後5年が経過するとともに、先の熊本地震では避難場所に関する新たな課題も生じたことから、計画の見直し作業を進めていたところでした。具体的には、「災害対策基本法改正に沿った避難場所分類の見直し」、「寒さ対策の充実」、「備蓄物資の数量・品目等の充実」、「要配慮者対策の充実」、「ペット同行避難者や車中泊避難者への対応の検討」の追加を想定していました。
避難場所の分類については、東日本大震災では住民が津波の危険区域にある避難所に逃げたためにかえって危険が生じたことから、指定緊急避難場所として、災害の種類(洪水、土砂、地震、大規模な火事)ごとに、危険から緊急に逃れるために避難する場所(小中学校や区体育館など)を指定しています。
計画の見直しに当たっては、学識経験者、関係団体及び市民など幅広い意見を取り入れた検討を行うこととし、平成30年7月に「札幌市避難場所基本計画見直し検討委員会」を設置しました。
そうした矢先、昨年9月6日に発生した北海道胆振東部地震では、北海道で初めて震度7、札幌市内でも最大震度6弱を観測し、最大1万人を超える市民や観光客が避難を余儀なくされました。
市は、策定途中であった「札幌市避難場所基本計画」の見直し作業を延期し、改めて当地震における避難場所に係る課題の抽出作業を行っています。現時点でも「避難場所の開設手順」、「備蓄物資の見直し」、「福祉避難所の位置づけ」、「停電対策」、「外国人避難者への対応」、「子どもへの配慮」、「助成への配慮」、「ペット同行避難者への対応」、「避難者への情報提供」等、様々な検討課題が挙がっています。
例えば、「備蓄物資の見直し」について、寒さ対策として現行は、高規格寝袋、毛布を備蓄し、最大想定避難者(110,666人)に対してそれぞれ1個、1枚配給し、発災直後の暖房が停止している間は、寝袋、毛布等、直接身体を保温する用品による対策を基本としています。また、採暖用として移動式灯油ストーブを基幹避難所1か所あたり2台備蓄しています。これに対し、「冬季の災害において、体育館に雑魚寝するのは、健康的リスクが高い」、「特に高齢者、障がい者、妊産婦、乳幼児に対しては発災直後からの配慮が必要であるが、その対応に必要な物資が無い」等の課題が挙がっています。これらを勘案し、「企業・団体等と協定を締結し、ダンボールベッドを調達できる体制とする」、「発災初期から特に配慮が必要な高齢者、障がい者、妊産婦、乳幼児に対し、協定により調達するダンボールベッドが配給できるまでの対処として簡易ベッドを備蓄する」等の対応を検討しているところです。
地震から2カ月後の11月、札幌市内の小学校の総合学習で、6年生を対象にした出前授業をする機会があり、計画見直しについても紹介しました。子供たちからは質問が相次ぎ、関心の高さを改めて感じました。さまざまな意見に耳を傾けつつ、今後、これらの課題に対する対応を一つ一つ検討し、来年度には新たな計画案を公表する予定となっています。
佐藤邦昭(さとう くにあき)プロフィール
株式会社まちづくり計画設計代表取締役
1969年、室蘭市生まれ。北海道大学大学院(建築工学専攻)を経て95年、地元札幌市の建設コンサルタント株式会社に入社。2000年に現在の会社の立ち上げに参画し、2013年から現職。
第94号 の記事
2019年3月1日発行