六華だより

出会い系の仕事をしています!?

第92号

出会い系の仕事をしています!?

高橋さやか(南36期 )

 

ある日、石巻で老人向け施設などの事業を展開する会社に、一人の就活生から電話がありました。「そちらの会社で働かせて欲しい」という内容のものでした。

詳しく聞いてみると、遡る事7年前、高校一年生のときに学校のキャリアセミナーで聞いたA社長の話に感銘を受け、「いつかあの社長と一緒に仕事がしたい!」と思い続けていたそうです。A社長は、いたく感激し、採用の予定は無かったものの、すぐに面接をして、その学生に入社してもらうことに決めたそうです。そして、この事をAさんは興奮気味に私たちの事務局に連絡してくださいました。

・・・・このような出来事は、頻繁に起きているわけではありません。もちろん、かなり稀なケースです。でも、それ位、人と人との出会いは人生を変えるきっかけになるのだと思ったエピソードでした。

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仙台在住の36期高橋(旧姓熊木)さやかです。今回、機会をいただけたので、私の仕事である若者と大人の出会いの場“キャリアセミナー”について紹介させていただきます。

キャリアセミナーの様子

その前に高校時代の自分を振り返ってみますと、これといった夢がある訳でもなく、かといって熱心に部活に励む生徒でもありませんでした。入学直後、周りの友達の優秀さにただただ驚き、自分のあまりの成績の悪さが恥ずかしかったために、隠れて必死に勉強はしていました。あとは文化祭や体育祭といった学校行事に真剣に取り組んだり、友達とおしゃべりしながらそれなりに楽しい毎日を過ごしていました。

進路も興味がある分野の学部がある大学に進学したものの、その後の就職先とは無関係でした。面白そうという理由で会社も選び、正直ずっと、人生にこれといった確固たる目的も目標も持っていたわけではありませんでした。それでも、仕事をするようになると、自分なりに生きる目的みたいなものが生まれて来た様に感じます。

 

私の南高校生時代(今から約35年前)には、確かキャリアセミナーや社会人講話を学校で聴くということはありませんでした。その代わり、親戚付き合いが今より多く、田舎に行くと「ちょっとやんちゃな従兄弟のお兄ちゃんが、マグロ漁船で10ヶ月海に出て何百万も稼いだ」とか、「あの叔父さんは出世してもうすぐ社長だ」とか、「あの人みたいになっちゃダメよ」みたいな酒癖の悪いおじさんがいたりしました。おばちゃんたちは、もはや親戚かどうかなども関係なく近所の人まで、「早く嫁に行け」だの、「これからは女も稼がなきゃ」だの言ってくれて、案外、仕事や人生について聴く機会はあったように思います。ところが、少子化や核家族化が進み、都会での生活が増えて、このおせっかいな親戚や近所の方々がいつの間にかいなくなり、子供たちは生き方のモデルが、身近な両親や先生、習い事や塾の先生、病院やコンビニの人、後はテレビに出てる人、と言った程度になっているのではないでしょうか。もちろん手に入れようとすれば、いくらでもインターネットで情報を得られます。でも、実際に会ってみると、驚くほど職業観が乏しい子達が多いのです。そこには自分が興味を持って探さなければ、何も知ることが出来ない現状があるかと思います。

 

私の職場である仙台にあるNPO法人ハーベストは宮城県全体にある高校の約3分の1にあたる年間40校近くの高校に少人数車座形式のキャリアセミナーをコーディネートしています。簡単に言えば、昔いた親戚のおじさんたちの代わりの社会人と若者の出会いの場を提供しています。事前に講師のプロフィールが配られ、それを参考に学校で取った希望調査によって生徒が振り分けられ、一人の講師が10人程度の生徒に対して、お話をするのです。普段は、中学校や高校の平日の授業時間50分2コマに、仕事や人生について自らの体験を交えてお話しいただいています。生徒たちは、講座のタイトルはもちろん、講座内容・中高校生時代の様子、部活、好きな漫画・本、得意なこと・苦手なこと、何かしら引っかかるものがある人の話を聴いてみるようになっています。

人数が少ないため、対話も生まれやすく、何より逃げ場が無いためしっかり話を聴いてくれる場となっています。

市民講師ボランティアの登録数は、1600名を超えています。実は、キャリアセミナーにこれほどのボランティアが活躍している県は他に無く、当団体代表は、「宮城県は日本一お人よしが多い!」とよく言っています。

 

 

 

現場の先生方からよく聞こえてくるご意見でもありますが、今の高校生は、将来に対する希望がないと言うか、獏然とした恐怖感・不安感・閉塞感が私たちの時代より大きいように感じます。

ですから、実際に社会で活躍する大人から、学生時代何を考えていたのか、何に挫折してきたのか、そして、どうやってその失敗を乗り越えられたのか、などの体験を聴くことで、人生は生きていれば意外と何とかなるということを知り、決して細い一本道を綱渡りのように生きているわけではないことに安心するようです。

 

ある高校では、仙台市の会社社長Bさんが、高校時代に先生と喧嘩して、窓ガラスを割って腱が切れて腕が動かなくなるくらいの大怪我をしたときの話をしてくれました。その時、母親が先生に泣きながら、「私の腕を取って、この子につけてやってくれ」と頼む姿を見て、二度と親を泣かせるような真似はしないと心に誓ったエピソードなどを話してくれました。Bさんは心の底から反省し、親のありがたみを知ることになったそうです。生徒たちは、こういったリアルな話を聞くことで、自分を支えてくれている家族の思いなど様々なことに気づいていきます。

石巻市の写真

生徒の中には大人の話を素直に聴ける状態で無い子たちもいます。椅子に斜めに腰掛けて、目を瞑っている子もいます。

そんな生徒さんがいる学校に訪れた時の事でした。

Cさんという講師は、反社会的勢力の父親とホステスをする母親という家庭に生まれた生い立ちについて話してくれました。日常的に父親から虐待を受け、やがて、暴力に耐えかねた母親が実家に幼いCさんを連れて逃げ帰ったものの、今度は母親が麻薬取締法違反で逮捕されたため、学校でいじめに遭っていました。Cさんは、自分の生きる意味を見出せないまま成長しました。ところが、ある日接客の仕事をした時、初めて人に感謝され、名前を呼んで「ありがとう」と言ってもらえる体験があって、「ああ、この仕事をしてよかった。生きていてよかった」と思ったそうです。そして、その仕事を続けながら、自分と同じように生きていることに価値を見出せずにいる人が助けを求めてやってくる場所で話を聴くボランティアをしていることも話してくれました。

すると、講座終了後、講師控え室に、先ほど椅子に斜めに座っていた長身の生徒がやって来てCさんとぼそぼそと話していました。

ずっと誰にも話せなかったが、小さな頃から、父親の自殺の原因が自分ではないかと思って悩んでいること、生きる意味も将来何をしたらいいかも全く分からないこと、でももしかしたらそのボランティアに行けば、自分でも人の役に立つことがあるのか、ということなど話してくれたそうです。早速Cさんはボランティア団体にその若者を紹介することにしました。

 

人と人が出会うことで、お互いに変化が生まれ、どちらかが一方的に教えるということは無いということを日々実感しています。講師をしている皆さんも口々に「私も勉強させてもらっています」とおっしゃってくださいます。

自分の仕事の話をするということは、自分の人生を話すことでもあります。高校生の真っ直ぐな瞳に嘘は通用しません。常に人としてのあり方を問われているようにも感じます。

 

もしよかったら、ホームページを覗いてみてください。http://www.heartbest.net/

いつか私たちのような団体が用意しなくても、自然と若者と大人が生き方や仕事について話をするのが当たり前になる世の中が来ることを意図しています。

 

 

高橋(旧姓熊木)さやか プロフィール

NPO法人ハーベストスタッフ
1967年広島県生まれ大阪経由札幌育ち。
北海道大学文学部行動科学科卒業後、

札幌の広告代理店に営業として勤務。

結婚を機に上京後、夫の転勤で我孫子市や郡山市などに住み、

現在は宮城県仙台市在住。震災後、現在の団体に勤務。

「伊達六華同窓会」という名の飲み会をゆるめに開催している。