六華だより

大人と子どもが一緒に楽しめる舞台を作りつづける

第92号

大人と子どもが一緒に楽しめる舞台を作りつづける

立川佳吾(南49期)

 トランク機械シアターの活動が始まったのは2012年。
それまでは札幌で小劇場演劇というジャンルで主に役者として出演するということが多かった舞台活動。そんな中上演していた一人芝居を知り合いだった保育士が観てくれて、自分の保育園の子どもたちにこのお話を見せたいと言ってもらってから始まりました。
そこの保育園は、年に数回人形劇の公演を呼んでいる園だったのですが、子どもたちをこぐま座(劇場)に連れていきたいという想いからこのお話をいただきました。

(ちなみに日本初の公立の人形劇場が中島公園にある「こぐま座」です。高校時代遠くから眺めるだけだったおかしな外観の建物は、日本では珍しいものでした。さらに併設の中島児童会館は1949年に日本初の公立児童会館として設立。実は日本の歴史の重要拠点だったんです。高校生の時は知りませんでした。)

 

 これは慣れ親しんだ保育園という場所ではなく、劇場という非日常に連れ出して、そこで迫力ある舞台を観てもらいたいという想いからでした。
大人と子どもが一緒に楽しめる舞台を作りたいという夢を持っていたけれどすっかり忘れてしまっていたぼくは、これを機に1回目の公演を実施しました。
話をくれた保育士は、この1回の公演で終わることを考えていたそうですが、続いていく集団に変わったのは子どもたちからのまた観たいという声と、またやるからねという約束でした。こうして現在の活動に至る団体が発足しました。

 

 子どもたちの声というのは、ダイレクトに届いてきます。
公演中はもちろん、公演後も表情や声、身体から伝わってきます。後日、創作して伝えてくれる子もいます。
それは一緒に観てくれた大人にも伝わります。大人の方の感想の声もとても大きくなりました。
それらはぼくらの創作のモチベーションにつながっています。

 また公演では毎回何が起こるかわかりません。朝の公演では笑っていたところでも、お昼の公演では笑いが起こらなかったり、全然違うところで笑ったり、子どもたちの感情移入するキャラクターが違うと、主人公が間違いを犯した時に共犯関係になる日もあれば、ダメだよと教える日もあったり。製作時には分からない予想外なことが起こるというのもとても楽しいです。
劇場では静かにしなければいけないという約束はぼくたちにはありません。
笑ったり泣いたりするのと同じように、声を出して参加していいんです。
(もちろん、観劇の上でのルールは何点かあります。立って歩かない・帽子は脱ぐ・携帯電話は切るなど)なので、毎回上演するまでわからない部分があります。
でも、子どもたちからあがる声をひとつひとつ、会話のようになるべく反応する。
今ここで起きているやりとりも楽しんでもらいたい。大変ですが、ぼくらのやりがいでもあります。

  また、観客のモチベーションも様々です。子どもにみせたくて一緒に来たおじいちゃんは、自分が観たいわけではないこともあります。
そんなおじいちゃんにも、寝ないで楽しんでもらうというのがぼくたちのこだわりです。
高学年になってきて、舞台なんて観たくないよと思っている子たち。
そんな子たちも目が離せなくなるように、舞台上では情けない姿も汗だくで全部見せます。
大人たちの全力な姿を見てもらう。そうすれば、きっと想いが届くと信じてやっています。

 公演を通じて、人形や役を通して遊んで、ぼくたちは友達になりたいと思っています。
だから終わった後も出来る限り、ひとりひとりとお話できる時間を作っています。
舞台作品を楽しんで友達もできたら楽しいでしょう?

 

 現在、トランク機械シアターの公演はこぐま座で公演を行う「本公演」・呼んでいただいた先で公演をする「おでかけ公演」が基本となっています。
僕たちの作品の中で多くを担っている主人公「ねじまきロボットα」の夢は「世界中のみんなとお友だちになること。」これを叶えるべく活動をつづけています。
ただ自分たちの活動だけだと限界があるのも事実。
例えばこぐま座に来てもらう為には、こぐま座に来ることができないといけない。
子どもが小さくて車がないと難しいので、琴似でやれないかという声をいただきました。同じ札幌でも、どこでも気軽に移動できるわけではないということを実感しました。
琴似での公演は実現できましたが、自主企画としては1年続けることが限界でした。
また経済的に観に行けないということだったり、子どもに見せるものは無料でないと行かないという声もあったりします。

 

 それでも舞台を観たことがないという人がいなくなるように、色々な形で作品の上演を行っています。
子どもたちに観てもらうためには大人の力が必要です。
どんなに小さなきっかけでも、思いついたら教えてください。一緒にワクワク&ドキドキの世界を届けましょう。

 最後に夢を少し。
公演を通して出会った子どもたちが大きくなっても劇場に遊びに来てくれること。
そして自分も公演に参加したいとやって来てくれること。
そして色んな世代のたくさんの仲間が集まってお祭りを作れたら。
そんな夢を描いています。

 

立川 佳吾プロフィール


札南演劇部に入部してから、役者として活動を開始。

2012年にトランク機械シアターを旗揚げ。札幌を中心に全国で公演を行っている。

また、ナレーターとしてCM等のナレーション。専門学校で講師も行っている。

トランク機械シアター

トランク機械シアター facebookページ