六華だより

演劇と繋がるからだ

第92号

演劇と繋がるからだ

金崎敬江(南44期)

高校演劇から数え、演劇を始めて今年2018年で27年目となった。
それだけでも随分な歳月であるが、様々記憶を辿ってみると
「お芝居やりたい!」と思ったのはどうやら幼稚園の頃の自分なので
人生のほとんどを『演劇』に寄り添って過ごしてきたことになる。
それほどに、私のことを魅了する、もしくは離してくれない『演劇』とはなんだろう。

<生きていること、生き様を肉体から感じることができるのが『演劇』なのではないか>


ピーター・ブルックの『なにもない空間』は、ただそこに在ることを大事にしている。
空間が在り、人(俳優)がそこに居ることで、演劇は生まれる。
何もなくても - 装置や音響、照明、そして脚本さえも - 。


27年間、その時々で『演劇』または作品に関わる際の
“課題”“興味”“作用していること”は変化してきているが
今、辿りついているのは <身体> と <演劇> についての結びつきだ。
生きてきた時間が、全て身体の記憶に刻まれていると私は考えているからだ。
食べてきたもの、出会ってきた人、行った場所、観たもの、聴いたこと、触ったものなどなど。
とにかく様々な、その人にしかわからない体験が“その”身体に刻まれている。
人それぞれ、その人にしかないもの。
生(live)であることの重要性。
肉体を通して、存在する作品。
改めて<バーチャルではない!>の部分が『演劇』だと感じている。
演じることは、肉体を通して発せられる“なにか”である。
身体を所有していること。肉体があること。
本当の孤独=誰とも会わない隔離された時間や空間 でない限り肉体が思考を支配している。

2017年 miel -La petite boîte2-『 み ち 』(deux)
2017年 miel -La petite boîte2-『 み ち 』(deux)

演劇に関わっている時、私が主な役割として担っている俳優という仕事は、全てが必ず活かせる希有な仕事だと実感している。
この肉体を通じて、他者が感じとり、受け取ったものに影響を受けて変化したりする。
観客が悲しみも哀しみも苦しみも喜びも、このからだを通して追体験してもらう為に
時代も年齢も飛び越えて、作品の中に生きなくてはならない存在。
そういう意味では、演じている人間自身の自分がなくなることでもあったりする。
だけれども、そこに居るのは【自分】という肉体でしかない、というパラドックス。
私自身が満ちていなくて、そこに立っていられなくて、在るがままにいられなくて
他の役を演じることはできない。

2017年 miel -La petite boîte2-『 み ち 』(deux)
2017年 miel -La petite boîte2-『 み ち 』(deux)

経験だけが、人の価値観や思考を作っているとしたら
人生の、一年の、一ヶ月の、一日の時間は限られていて
1人の人間が人生のうちにたくさんの職業、時代を生きることは難しく
必然的に価値観や思考の幅も限られてしまうけれども、俳優はそれが想像を超える範囲で可能なのだ。
いろんな役を通じて、その人(役)という、自分ではない人物の価値観で世の中を観ることができる。何人分もの人生を生きられる。
とても贅沢で、希有で、尊い職業なのだと思う。
人に非ず。

だから、肉体・身体を信じていたいし、可能性をまだまだ探っていきたい。
演劇と共に進むには、そして私が生きている以上、この身体が在るのだから。

『演劇』がそこにある。そこにある「生だからこそ」の部分は
生身の人間がそこで演じているからこそ感じ取れる、エネルギーのやり取り。
演じ手だけでは成り立たず、観客という存在が居ることで、完成すること。
それゆえ同じ演目を上演していても、回によって仕上がりが異なること。
繊細な動作、微細な間、視線のやり取り、人間だからできることが詰まっていること。

2014年 miel #003『 す き と お り 』
2014年 miel #003『 す き と お り 』

20年以上の作品創りには、たくさんの身体と出会ってきた私の身体があり
全てが「今」「ここに在る」に集約されている。
たくさんのからだの言葉を持っているともいえる、自身のからだ。
今の私があるのは、出会って来た皆さまのおかげ。
日常の様々も、振付や演出で関わる作品や現場も、私のからだの栄養であり、たくさんの身体に出会い、触れることを楽しんでいる。
この身体と思考が、どんどん進化するのを感じている。
その度ごとに出会う『演劇』と、人と繋がっていくことを、これからも楽しみにしている27年目の演劇人生。


整体・ボディケアセラピストとして、マッサージなどの施術をしている様子。
力ではなく、呼吸との連動を促したり、能動的に動いてもらうことで
ほぐしを効率良く行います。

ご本人が辛い・気になると感じている箇所は実際の問題ではなく
別に根本となる原因の箇所があったり
感情や日常の習慣などが原因であることもあります。
それを見つけることができます。
また、簡単で継続できるセルフケアをお伝えしています。

 
ワークショップや個人レッスン等では
骨の構造、筋肉の付き方、作用の仕方、動き方を
簡単にわかりやすく説明しつつ
・目で見ること
・実際に触れていくこと、
・触れられていることの感覚を使い
呼吸と連動させながら(呼吸の仕方もお伝えしつつ)ほぐしていきます。

自分のからだの状態を知っていき、余計な力を抜いていくことで
本来のからだの持つ可能性を引き出し、整うことで意識(マインド)も整います。
“からだが変われば意識が変わる”
をベースにしているのが『みえるからだほぐし』です。
からだを観る、からだから視える。
あなたのからだは、あなたにしかない一番の宝物。
だから自分のからだを大事に、そして信じてほしい、と考えて活動しています。

金崎 敬江プロフィール


1975年生まれ。
早稲田大学第二文学部演劇専修卒業。

在学中から劇団東京オレンジ、bird’s-eye viewに所属、俳優・振付にて活動(現在は退団)。

2010年より、個人レーベルmiel [ミエル]主宰。プロデュース、演出も手がける。

2017年 整体・ボディケアセラピスト資格取得。
『みえるからだほぐし』という身体のプログラムを実施。

アメブロ『みえることごと』
https://ameblo.jp/hiroe-yukino