六華だより

「バカ枠」に囲まれた高校時代

第96号

菊地真章(南54期)

 もし、札幌南高校に行ってなかったら、私はテレビ業界に就職していなかったかもしれません。それはつまり、「チャンネルはそのまま!」に携わることもなかったかもしれない。

 

チャンネルはそのまま!」快進撃

 

 HTB開局50周年ドラマ「チャンネルはそのまま!」は手前味噌ですが…なんかすごい賞をとりました。2019年日本民間放送連盟賞テレビ部門グランプリ…すごさを表現するのが難しいのですが、受賞作品はYahoo!ニューストップに載るくらい、国内のテレビ番組関連の賞ではギャラクシー賞とこの民放連の二大巨頭、というくらいの賞です。この賞をローカル局、しかもドラマがとるのは初めての事です。

 受賞の理由として「テレビの可能性」や「「ローカルの可能性」を感じた、といったコメントがありました。これは北海道のテレビマンとしては本当に嬉しい言葉です。私が入社した10年前と比べてもテレビを取り巻く環境は激変しました。インターネットやスマホの普及によりライフスタイルが変わり、コンプライアンスがあれして、働き方改革がこうして…つまりテレビが見られなくなりました。若者が特に顕著です。視聴率が減って、広告費が減って、番組のクオリティが下がって…の悪循環でテレビに関するニュースは悪いものばかり。ローカル局はキー局に比べてさらに厳しい。そんな中、今回の受賞は業界内で大きな関心を集めました。「テレビはまだやれるんだ」と。

「助監督」…激務の日々

 

 さて、私が具体的に何をしたかと言うと、助監督と言われている担務です。その名の通り、監督の補助。監督の演出に関わる業務、つまり全部ですね。準備は約1年、ロケは約50日。

 ロケ中は朝6時~深夜まで。休みはほとんどありません。50日間で4キロ痩せました。

 助監督の具体的業務は衣装、小道具、エキストラの演出、台本の修正…。助監督は私を入れて全部で5人。私以外は東京からやってきた本広組(本広監督のチーム)。1年中ドラマしかやっていないプロ中のプロ。一方で私は普段は深夜のバラエティ番組をやっているドラマの素人。なかなかしびれましたし、ビビりました。悩んだ挙句、自分にできること、自分にしかできない事を真摯にやろうと決めました。私はバラエティの前は8年間報道記者をしていました。「チャンネルはそのまま!」も主人公は報道部の記者。脱線しますが「チャンネルはそのまま!」はHTBがモデル。マンガ原作者の佐々木さんの知人がHTB社員だったのが漫画誕生のきっかけです。漫画のネタも全てHTB社員への取材から生まれた実話です。私のネタもたくさん漫画化されています(ヘリでおしっこをもらしそうになったり、ニュースで取り上げるキリンの見分け方がわからなくなり上司に怒られた話など)。話を戻しますが、ドラマの演出現場で報道記者経験者は私だけでした。これを生かそうと思いました。具体的な私の担務は台本の制作補助(報道記者の言い回しや専門用語に関する助言)、役のモデルのリサーチ(実際の記者やカメラマン、営業マンなど全ての役のモデルに対し普段考えてることや1日の過ごし方などを取材。文書にまとめスタッフへ配布。芝居や演出の参考にしてもらう)、衣装や小道具のリサーチ(本物のHTB社員の服装やバッグの中身などを取材しまとめ、監督や衣装部に提出)、エキストラの演出(報道記者やカメラマンなどテレビマンならどんな動きをしてどんな台詞を言うのかを説明し芝居をつける)などなど多岐にわたりました。あと、カチンコも生まれて初めて担当しました。

 テレビ局を舞台にしたこのドラマ特有の仕事があり、それはインビデオ制作です。インビデオというのはドラマの中で流れている映像のこと。よくサスペンスとかでニュース映像が流れています。あれです。今回はインビデオの数が膨大でした。テレビ局には職業柄、自局と他局、合わせて6局分のテレビモニターが各部署にあります。部署によっては6台×3セットといったようにとにかくテレビがたくさんあり、ほとんどの芝居場所にテレビがあります。そこに流す映像を制作するのが本当に大変でした。芝居の時間によって朝、昼、夕方、夜…と流れている映像を変えます。夕方はどの局もワイドショーっぽい映像、夜はバラエティもあるよね、なんて考えながらHTBのライブラリーに眠ってる実際の番組をピックアップし、ドラマで使用していいか各プロデューサーに許諾を得ました。あまりにも膨大なので1台はNHKと設定しずっと風景や動物のドキュメンタリー映像を流しました(笑)。CMもあるよね、となり助監督チームで架空のCMをたくさん作りました。これらのモニターはアップになることはまずありませんが芝居の裏で常に流れています。手を抜けそうで抜けない仕事でした。ドラマは細かいところまで作り上げることを学びました。そんなところもチェックしてもう一度見て頂けたらまた別の楽しみ方をできると思います。(インビデオ映像はHTBの公式youtubeチャンネルに全てのっています)

 

「バカ枠」に囲まれた高校時代

 

 冒頭の話。私がテレビ局に行きたいと思ったきっかけは札幌南高校時代にさかのぼります。南高祭で映画をみながらお茶できる映画カフェをやろうという話になり、私が映画監督を務めました。映画は好評でみんなに褒められました。翌年は有志で教室を借りて映画館を開きました。この2回の経験で映像づくりの面白さを知り、テレビ業界を志すようになりました。「チャンネルはそのまま!」も多くの南高生が関わっています。HTB社員にはそもそも南高生が多い。報道や営業など20人はいるでしょうか。たった200人の会社ですが。広告会社やスポンサーにもうじゃうじゃいるのできっと多くの校友の力によって実現したと思います。

 「チャンネルはそのまま!」の主人公は「バカ枠」という謎の採用枠で入社しました。おバカで迷惑をかけることはたくさんあるけど、どこか1点では秀でていて、気付いたら周りを巻き込み組織を良い方向に導く…そんなキャラです。この「バカ枠」という言葉を聞いたとき南高を思い出しました。うようよいたなと(笑)。悪く言うと社会不適合者、よく言うと突き抜けてる…そんな「バカ枠」に囲まれて本当に幸運でした。彼らの刺激がなかったら今の私はいません。

 

最後に…「チャンネルはそのまま!」2020318日(水)に発売!

現在、予約受付中です(笑)。特典映像も満載ですよ!

私が担当している「ハナタレナックス」についても今後とも応援よろしくお願いします。

 

 

菊地真章(きくちまさあき)プロフィール

札幌市出身。34歳。
伏見中学校卒業。
高校時代はサッカー部所属。
早稲田大学卒業。

 HTB(北海道テレビ放送)に入社し報道部に配属。釧路支社や報道ステーション出向を経て総合制作部へ異動。「チャンネルはそのまま!」では助監督を担当。
現在、深夜バラエティ番組「ハナタレナックス」担当ディレクター。