六華だより

困難を抱える人々とともに、より良き社会をつくる

第100号

土畠 智幸(南46期)

 南46期の土畠です。この度は六華だより第100号への原稿執筆という貴重な機会を頂きありがとうございます。私が行っている活動についてご紹介をさせて頂きます。

 2003年に北大医学部を卒業し、手稲渓仁会病院小児科に入職しました。米国への医学留学を目指して準備していましたが、小児科医4年目のときに在宅で人工呼吸器を必要とする重度の障害をもつお子さんとの出会いがあり、訪問診療を始めました。当時まだ小児の訪問診療を行っている施設は全国にもほとんどなく、あっという間に患者さんが増え、米国行きは中止して小児の在宅医療を行うことにしました。
 2013年に医療法人稲生会を設立、2015年からは北海道、2020年からは札幌市から委託を受け、人工呼吸器などの医療行為を必要とする医療的ケア児の在宅医療に加えて、保育・教育・福祉などに関する指導助言を行っています。2021年6月には「医療的ケア児支援法」が成立しました。今後は、全国で小児在宅医療や医療的ケア児支援が広がっていくものと期待しています。
 医療法人稲生会は「困難を抱える人々とともに、より良き社会をつくる」という理念を掲げ、医療や福祉の事業のみならず、「社会変革」のための事業も行っています(http://www.toseikai.net/)。医療的ケア児やその家族の「ために」ではなく、「ともに」。障害に限らず、様々な困難を抱える人々が自らの可能性を最大限発揮できるような「より良き社会」をつくるために様々な活動を行っています。その一部をご紹介します。
 まず初めに、絵本「ぼくのおとうとは機械の鼻」の製作です。私が訪問診療で出会った子どもたちやそのきょうだい達のことを題材にして、障害があっても無くても「みんな、とくべつなひとり」なのだというメッセージを込めました。2017年9月に完成し、北海道内の小学校約1,200校全てに寄贈したほか、2018年にはクラウドファンディングを行い、全国550の学校に寄贈しています。Youtubeで朗読ムービーも視聴できます。

絵本「ぼくのおとうとは機械の鼻」みんなのことば舎, 2017

 次に、映画「こんな夜更けにバナナかよ 愛しき実話」の医療監修です。札幌市に実在した筋ジストロフィーの男性のドキュメンタリー本である「こんな夜更けにバナナかよ」(渡辺一史著, 文春文庫, 2013)を原作として、北海道出身の俳優大泉洋さんを主役に、2018年に札幌を中心とした北海道での撮影が行われ、私が医療監修を務めました。大泉さんの身体の動き、人工呼吸器の音、広告のキャッチコピー、ユニバーサル上映用のテロップなど、随所にわたり監修をさせて頂きました。私が在宅医として関わった患者さんたちのことを想像しながら監修しましたので、彼/彼女らと「ともに」映画製作に関わったと言えます。その後、地上波テレビでも放送され、多くの人に障害当事者の生活や人生について知って頂く機会となりました。

 次に、「医療的ケア児写真展」です。全国から医療的ケア児とその家族の写真を募集し、それを札幌市の地下歩行空間「チカホ」に展示しました。全国から集まった約1,000枚の写真の中には、すでに亡くなったお子さんの写真も多く含まれていました。2021年3月の開催時には、亡くなられたお子さんのご家族もたくさん来場してくれました。「亡くなった子どもが生きていた証しになる」「あの子が多くの人にメッセージを伝えてくれている」そんな風に話されていました。その後、札幌市の北星女子高校の学生さんたちが写真展を開催したいと希望してくれて、2021年10月に同校内で開催されました。2022年1月には、札幌市民交流プラザで開催をしてくれることになっているほか、他の高校や大学からも開催したいという声を頂いており、医療的ケア児やご家族が「巡回」して「みんな、とくべつなひとり」というメッセージを伝えてくれています。

医療的ケア児写真展「みんな、とくべつなひとり」2021年3月開催

 最後に、障害の有無によらない学びの場「みらいつくり大学校」の活動です。この活動は、ある障害児の母の思いから始まりました。ほとんどの人が高校卒業後に大学や専門学校に行って学んだり色々な人と出会ったりするように、重度の知的障害と身体障害を抱える自分の子どもが特別支援学校の高等部を卒業した後も学ぶことができる場をつくりたい、「障害者が通える大学をつくりたい」という思いです。ちょうど同時期に、文部科学省で「高校卒業後の障害者の学びの場づくり実践研究事業」の公募が開始となり、全国18の採択団体のうち唯一の医療法人として稲生会の「みらいつくり大学校」が採択されました。

 2018,2019年度は対面での講義およびゼミ形式で開催しましたが、2020年度からはコロナ禍の影響ですべてオンライン化しています。現在、約10の定期講座を開催しており、その様子をホームページで公開しています(https://futurecreating.net/)。年齢や障害の有無を問わず多くの人が参加して、六華同窓会の先輩との出会いもあったり、「障害の有無によらず、誰でも気軽に参加できる学びの場」の重要性を改めて感じています。Zoomを使ったオンライン活動がほとんどですが、カメラ・マイクオフでの「ラジオ参加」も大歓迎、無料の会員登録をして頂くとホームページから過去の講座のアーカイブ録画も視聴できますので、ぜひ一度ホームページをご覧ください。

みらいつくり研究所 会員ページより

 2021年12月現在、新型コロナウイルス感染症のパンデミックはいまだ終息をみておりません。自身や家族の生命はもちろん、生活、人生など、様々なかたちでの「いのち」が「差し迫り」を受ける状況で、「生涯にわたる、困難からの学び」の必要性を強く感じています。自らが抱えた困難を「あってはならないもの」とするか、あるいは「いのちの差し迫り」と捉えて自らの生き方を考え直すきっかけとするか、危機の時代において全ての人が問われているのだろうと思います。そのような学びの場づくりを含め、「困難を抱える人々とともに、より良き社会をつくる」ための活動を続けて行きたいと思います。


土畠 智幸(どばた ともゆき)

1977年 札幌市生まれ。

札幌南高、北大医学部を卒業後、手稲渓仁会病院小児科に入職。2013年に医療法人稲生会を開設、人工呼吸器などを必要とする医療的ケア児者の在宅医療を行う。2013年北大公共政策大学院修士課程修了、2014年から北大教育学院博士後期課程に在籍。2020年から北海道科学大学客員教授。

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