六華だより

東京2020オリンピック・パラリンピック表彰台の設計統括を担当して

第100号

田中 浩也(南44期)

 札幌南高44期の田中浩也です。慶応大学湘南藤沢キャンパスで、プラスチック・リサイクルを行いながら、3Dプリンタを使って新しい「もの」へと資源再生させる研究教育に携わっています。その過程で、ひょんなことから、東京2020オリンピック・パラリンピックで使用する表彰台100台を、全国各地の小学校やスーパーで集めた「使用済み洗剤容器」をリサイクルしてつくりだす、という前代未聞のプロジェクトに参加することになり、最終的には設計統括をつとめさせてもらいました。

 集められたプラスチック洗剤容器は24.5トン。それを洗浄、粉砕して、耐久性の高い材料へと改良し、3Dプリンタに投入します。この表彰台のデザインは、五輪のエンブレムデザイナーでもある野老朝雄さんが努められました。五輪エンブレムは、オリンピック・パラリンピック共通ルールで、3種類の長方形がつながりあって「環」になるように、幾何学的な操作が施されたものです。今回の表彰台にも同じようにその幾何学ルールが用いられることになりましたが、大会エンブレムのように「白」と「紺」の2色をそのまま配してしまうと、表彰台の模様が目立ちすぎてしまいます。視覚的象徴性を担う「エンブレム」と違って、表彰台はなにより「選手が主役」であることが大切です。そこで、この幾何学パターンを「レリーフ」として表面の凹凸で実現し、ここに横から照明や太陽の光が注いだ時だけ、ささやかに幾何学が浮かび上がるような、一歩引いた工夫を凝らしたのでした。その一連の設計製造過程は、こちらの動画2点にまとめてあります。

 一年の延期を経て、五輪は昨年開催され、毎日の表彰式で実際に使用されました。表彰台の運搬設置を担当されたヤマト運輸さんは、大会種目にあわせて、長くしたり、短くしたり、適宜、表彰台のパネルの枚数を変えて、現場で組み立ててくださいました。

 大会が終わった今、この表彰台は、メダリストゆかりの小学校・中学校への大会後譲渡(リユース)が始められています。リサイクルしてつくったものを、大会が終わったからといってすぐに捨てるわけにはいきません。ぜひ、長く愛されて活用していただきたい。受け取った学校は、地域の運動会などで「表彰台」として活用することはもちろん、側面のパネルのみを取り外して額装したり、あるいは、音楽室の壁に並べれば「レリーフ」の凹凸効果がうまく作用して、音響拡散効果を持つようにもつくってあります。新しい使い方を、これから一緒に探していけたらと思っています。

 2022年のお正月、久しぶりに実家のある札幌に戻った私は、この表彰台の窪みに「雪」を詰めて遊んでみました。「白」と「紺」の2色からなる、まるで大会エンブレムがそのまま立体になって飛び出してきたのような「彫刻作品」に変化しました。こんな、北国ならではの新しい使い方だって発明できるはずなのです。

 私たちの取り組みが影響したかどうかはわかりませんが、2022年の4月から「プラスチック資源循環促進法案」が施行され、使い捨てプラスチックをリサイクルすることが、国の大きな流れにもなってきます。環境に配慮したことはますます大事、でも同時に、形もきれいなデザインで、遊び心も加えていきたい。研究開発をしているとき、いつも心の支えになっているのは、小さい頃の雪だるまづくりの記憶です。

田中 浩也(たなか ひろや)

慶應義塾大学 環境情報学部 教授

京都大学総合人間学部、同人間環境学研究科、東京大学工学系研究科博士課程修了。博士(工学)。2005年に慶應大学環境情報学部(SFC)に専任講師として着任、2008年より同准教授。2016年より同教授。現在は妻と5歳の娘とともに神奈川県鎌倉市在住。