51年目の映画ベスト選定
門脇 繁(南29期)
世の中には、「映画好き」という人種がいる。履歴書や自己紹介の趣味欄に「映画鑑賞」と記入する人たちである。ただ「映画好き」といっても色々な種類の人がいて、ワイドショーや雑誌の特集で話題になった映画だけは観逃さないという人、今全盛のサブスクで狭い範囲のジャンル映画をとことん舐め尽くすように観ていく人、自分のお気に入りの古い映画を何度も繰り返し観る人、映画を通して世界の「今」を感じつつ、オールジャンルの新作映画を毎年、毎年、追い続ける人・・・・と、本当に様々である。私もそんな「映画好き」のひとりであり、自他共に認める生粋の「映画バカ」である。
私のような「映画バカ」が形成された主要因は生まれ育った環境にあると思われる。札幌の中心部、ススキノ都通り二丁目で産湯に浸かり、物心ついて周りを見渡せば、御近所は映画館だらけであった。私の生家から十数メートル東に歩けば「札幌劇場」、横断歩道を南に渡れば「大映劇場」、それから西に渡れば「松竹座」、そして北に渡れば「日活劇場」・・・そのまま狸小路まで向かえば「帝国座」や「松竹遊楽館」、さらに北へ一丁行けば「東映劇場」、丸井さん(デパート)まで足を伸ばせば「東宝日劇」、ススキノ奥地に戻れば「東宝公楽」・・・とまあ、今から思うと凄い環境である。両親共に映画好きであったので、これらの映画館にはよく連れて行ってもらったものだ。小学校にあがる直前に藻岩地区に転居したのだが、映画と映画館への欲求はどんどん膨れ上がり、中学生になるとしばしば自分一人で映画館に足を運ぶようになった。当時、そういう輩は「不良」というレッテルを貼られるのであるが、自分では(親の方も)勝手知ったる旧裏庭に遊びに行ってるだけ、という感覚だったと思われる。
こうして「映画好き」が「映画バカ」に進化?していき、中学一年からテレビ放映作品も含めて自分が観た全ての映画の記録をつけ始め、中学三年(1975年)からは、その年に観た映画のベスト10(1977年からはベスト20)を決め始めた。1975年に観た映画は、劇場で92本、テレビで96本、合計188本である。よくまあ、これで南高校に合格できたものだと、今になって感心するやら呆れるやら・・。そんなこんなで「映画バカ」を続けてきた50年の軌跡を昨年(2025年)一冊の本にまとめた。拙書「シカバン 札幌<映画>生活史1975-2024」(寿郎社)である。この本は、私が勤務する歯科医院ホームページに掲載していた18編の「歯科版」映画エッセイと50年間の「私家版」映画ベスト、さらに各年の映画にまつわるエピソードを書き連ねたものである。

下の写真は私が南高三年の時に記した映画ノート。今では老眼となり、自分が書いた小さな文字をちゃんと読めなくなっているのだ。トホホ・・・。

この本に、私が南高一年の時の様子を書いた文があるので、その一部を抜粋させていただく。
高校では月一回程度(だったと記憶してるが・・)午後の授業を潰して「必修クラブ」というものがあった。体育系、文化系かなりの数の選択肢の中から選んで登録するのだが、学生にとってこの必修クラブは「公的サボリ時間」であった。私はというと、当然「映画鑑賞クラブ」を選択した。フィルムをどこからか借りてきて、校内で映画を上映するわけではなく、札幌市内の映画館に行って映画を観る、ただそれだけのユルユルのシステムだ。クラブのある日は、昼休みに数人のクラブ員で新聞の映画欄を眺めつつ、その日の午後に観に行く映画を決める。一応、クラブ担当教師に「今日の映画」を報告して承認を得る。次に映画館に電話して料金の交渉をするのだが、この担当は主に私であった。
「あのぉ〜私、札幌南高校の映画鑑賞クラブの門脇と申します。本日午後二時三十分からの上映回にクラブ員十何人、映画を観に行くことになったので、団体割引をお願いしたいのですが・・・」
団体割引の場合、各映画館で「何人から」というのが決まっているので、その人数とこちらが提示する人数がポイントとなる。実際のクラブ員全員がその映画を観に行けば特に問題はない。しかしクラブ員は団体行動ではなく三三五五映画館に行くので、サボってどこかに行っちゃう奴らが何人いるのか判らないのである。想定人数から大幅に下回るような事態になると映画館から学校側に連絡が行く可能性が出てくるので、その辺の想定人数のさじ加減が難しいのである。映画館の窓口では、学生証の提示と「映画鑑賞クラブで団体割引お願いします」と言うだけである。ちゃんと映画を観たかどうかの確認は一切無し、後にチケットの半券や感想文の提出なども無し。もう、ユルユル。
そして2025年末、51年目の映画ベストを選定した。私の守備範囲は主に洋画で、ベストは洋画から選出し、邦画は別枠で数本選出している。誌面も尽きてきたので、ベスト3だけ紹介したい。
第一位:教皇選挙(エドワード・ベルガー監督)
〜密室選挙に風穴を開ける展開に息を呑む。極上のサスペンス・ミステリー。
第二位:罪人たち(ライアン・クーグラー監督)
〜ゾンビ・ホラーの外見だが、その実態は過去と未来を串刺しにする「音楽の魂」の映画。
第三位:Flow(ギンツ・ジルバロディス監督)
〜水を恐れぬ猫の冒険を通して、人類絶滅後の精神世界を想起させる革命的アニメ映画。
こうした「映画バカ」はおそらく死ぬまで治らないのだと思う。そして最期の時、頭をよぎるのは、きっとこんなこと・・・・
「畜生、あの映画を見損なったなぁ。あの世でのロードショーはいつからだ?」

歯科医師(口腔外科専門医、歯科顎関節症専門医)。
1986年、北海道大学歯学部卒業後、同学部口腔外科学第二講座入局。
1993年、医療法人二期会歯科クリニック勤務〜2007年より同法人理事。
2025年、札幌の映画館シアターキノのYouTube番組「映画談義」にゲスト出演
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第108号 の記事
2026年3月1日発行