六華だより

職場のハラスメント問題を考える

第93号

職場のハラスメント問題を考える

笹山尚人(南39期)

労働問題のメインストリームとなったハラスメント相談

 私は、労働者の権利を専門に弁護士業務を行なってきました。
2005年ころから、ハラスメントの相談が増え始め、今やハラスメント相談は途切れることがありません。最新の厚生労働省の統計でも、平成29年度中に全国の労働局に寄せられた「いじめ・嫌がらせ」の相談は6年連続でトップ(7万217件)。この問題が全国的に、労働問題のメインストリームであることがわかります。
 ハラスメントと一口に言ってもその内容は多種多様で、やはり多いのは職場でのいじめ、嫌がらせである「パワー・ハラスメント」、男女の性差別的内容の「セクシャル・ハラスメント」、妊娠・出産を契機とする不利益取扱い「マタニティ・ハラスメント」、男性の育児(休業)に関する不利益取扱い「パタニティ・ハラスメント」、です。

法律上の定義がなく概念・外延があいまい

 こうしたハラスメントについて、法律は、この定義をもってこのハラスメントの定義とする、といった定めを置いていません。パワハラに至ってはそれ専用の法規制も存在しません。
 裁判では、ハラスメントは、「人格権の侵害」と考えられており、その具体的な場面ごとに、「被害者の人格が侵害されている」と考えられれば、違法行為となって被害者に対する賠償を命じられます(賠償は加害者本人だけでなく、会社も使用者責任・安全配慮義務違反として命じられることがあります)。
 このようにその概念・外延があいまいであるために、「なにがハラスメントにあたるのか」はかなり難しい問題です。

あるパワハラ事件を例にとると

 私が担当したあるパワハラ事件を例にとって検討しましょう。
 その女性労働者(30代後半)は、3年余にわたり、職場でいじめに遭いました。職場は常務理事1名、職員3名の少人数構成で、常務理事含め全員が彼女より職歴が長く、かつ年上でした。ある意味「なあなあ」で動いており、常務理事や上司の気分で朝令暮改もしばしば。そんな中で正論を吐く彼女は、「若い新入りのクセに、生意気」と煙たがられるようになりました。①最初は、無視をされたり、必要な情報が回されない、といったことから始まりました。②そのうち、仕事を外されたり、些細なことで叱責されるようになりました。③あるとき彼女は、同僚から「あなたは社会人失格だ」と言われ、それに抗議をしたところ、④常務理事から、「あなた、辞めてください」「30日分支払えばいいんだから」と通告されました。⑤最終的には本人にけん責処分の懲戒がくだりました。彼女は心身の不調を訴え、適応障害と診断され、休むよう医師から指示されました。

 こうした場合に、被害者の人格侵害の有無をどう判断するかと言うと、まず、加害者、被害者をめぐる人間関係を取り巻く状況を把握し、その人間関係がフラットな関係なのか、ある種の力関係のあるものなのかを見極めます。そこから行われた行為の評価をします。
 職場の場合は、フラットな人間関係の成り立つ場面はどちらかというと少ないので、力関係の上の者が下の者が発言や行動しやすい状況を形成していない限り、加害者側のなにげない一言でも被害者には重篤な被害を与える場合があります。
 上記の事件の場合、年齢も若く経験も浅い被害者との間で事実上の上下関係があり、立場の上の人間たちがよってたかって配慮をしないまま被害者を追い込んでいった状況でした。③の「社会人失格」のような、人間性全体を否定するような言動、④の退職という義務のない行動を強要する行動、⑤の根拠に乏しい事由を理由とした懲戒などは、人格権侵害として比較的分かり易いと思われます。本件の場合は、労働審判という手続きを遂行しましたが、裁判所からは、①の「無視をする」「情報を回さない」、②の仕事外しや厳しすぎる叱責といった点を含めて、違法なハラスメントとの指摘が使用者側に対してなされました。

職場作りで気を付けたいこと

 こうした相談や事件の頻発を受けて、厚生労働省も、2011年から研究を開始し、2017年には検討会を開催、2018年3月30日、「職場のパワーハラスメント防止対策についての検討会報告書」を公表し、法制化も視野に入れた提言を行いました。
 いまや職場のハラスメントは、国際的な課題です。国際連合の労働部門機構というべき国際労働機関(ILO)は、2018年度の総会で「労働における暴力とハラスメント」を議題とし、総会に向けた報告書では、日本を含む締約国に対し暴力とハラスメント防止のための法制化を求めています。

 職場のハラスメントを引き起こさないようにするには、お互いの人間性を大切にする気風をつくること、とりわけ職場でポジションが上の者ほど、一人一人の職員の人間性を見て、十分な配慮をすることが大切です。
 部下に対する接し方で気を付けるべき手法としては、「社長の子女に言えないことなら言わない」ということでしょう。相手が自分より優位な立場にあると踏めば決して言えないことを、相手が自分より優位でないなら言ってよいことにはなりません。
 また、褒めるべきときは少し大げさにでも褒める、誕生日や何かの記念日に一言声をかけたり、お祝いしたりといったことも良いですね。
 毎日のそんな小さな積み重ねが、ハラスメントをなくすことにつながります。

笹山 尚人(ささやま なおと)プロフィール
弁護士
1994年中央大学法学部卒。
2000年弁護士登録、第二東京弁護士会所属、東京法律事務所所属。
著書に「それ、パワハラです」「ブラック職場 過ちはなぜ繰り返されるのか」(いずれも光文社新書)等