六華だより

紙上訪問がんばってます

第93号

「英語の絵本」を大人に?

新田哲史(南17期)

ジムと図書館通い

 公立高校の英語教師を退職後、父親が介護施設に入所したため新札幌から古巣の山鼻地区に転居しました。そこで真っ先に始めたのはスポーツジム通いでした。学校が職場なら体育館もあるし部活動も行われていて、教職員も手軽に運動できるはず…と思われがちですが、意外と利用できる機会がないのが実態です。また札幌市中央図書館がすぐ隣にあるので、ジム帰りなどによく利用するようになりました。

 

「おおきな木」との出会い

 図書館を利用しているうちに、図書の貸し出し以外にもいろいろな活動が行われていることに気づきました。ある日、めったに行かない3階の研修室で「英語の絵本読み聞かせ会」があるというので、軽い気持で顔を出してみました。そこで初めて「読み聞かせ」というものを体験しました。5~6名の会員さんが次々と私たちの前で英語の絵本を読んでくれて、マザーグースもいくつか紹介してくれます。読む前に日本語の解説もあるので、声が聴きとりづらくても内容はだいたい理解できます。絵本の絵にも様々なタッチがあって楽しめます。メンバーは木曜日の午前中に発表するグループと、土曜日の午後に発表会をするグループに分かれています。私は午前中にスポーツジムを利用しているので、土曜日グループに入ることにしました。

 

マザーグースって?

 英語教師だったのでもちろんその存在は知っていましたが、詳細についてはこの会に参加して初めて分かったような気がします。イギリスやアメリカで古くから伝わる、伝承の“わらべ唄”などの総称です。「きらきら星」や「メリーさんの羊」「ロンドン橋」などは日本でも昔から親しまれてきましたが、これらも実はマザーグースです。イギリスでは“ナーサリー・ライム”と呼ばれています。日本で“わらべ唄”というと、子供たちが遊びとともに唄っているイメージがありますが、マザーグースとして収集されているものには実にさまざまな種類があり、大人も楽しめる内容のものもたくさんあります。ナンセンスな内容が多いことや必ず韻を踏んでいるので音を楽しむことができるのもマザーグースのおもしろさです。
英語圏の子供たちは必ずこのマザーグースを聞いて育っているので、小説や歌詞、映画のセリフに引用されることが非常に多く、その出典を知らないと面白さが分かりません。例えば「ダイ・ハード3」で、ブルース・ウィリス扮する刑事が犯人からの電話で謎かけに答える場面があります。「セント・アイブズへ行く途中で出会った男が7人の奥さんを連れ、どの奥さんも7つの袋を持ち、どの袋にも7匹の猫がいて、どの猫にも7匹の子猫がいた。さて、セント・アイブズへ向かったのは全部で何人・何匹・何袋だ?30秒以内に答えろ。」刑事は最初、懸命に掛け算で答えを出そうとします。7777=…。しかし相棒がマザーグースの一節であることに何とか気づき、正解の「私1人だけ」と答えて難を逃れるのです。

 

どうして大人のために?

 絵本というと「子供のためのもの」と考えるのが普通です。それでも最近では、初めから大人のためを意識して書かれたものもあり、また子供用にではなく自分のために絵本を選ぶ人が増えているようです。絵本に最初に触れる機会は、何と言っても母親・父親の読み聞かせによるものでしょう。子供は気に入った絵本なら、飽きもせず何度も何度も繰り返し「読んで、読んで」…とせがむものです。
 絵本を読んでいるとき、自分一人で黙読しているのと子供のために「読み聞かせ」しているのでは全然読み方が違っています。子供の顔を見ながら楽しい話は楽しそうに、悲しい話は感情を込めて、怖い話では時々ビックリさせるように…。私たちは自然に声のトーンや間の取り方、表情を変えて読んでいます。そうして子供は絵本を好きになり、やがて自分で読むことを覚えていきます。絵本を読み聞かせているときに大人自身が楽しんでいなければ、その楽しさは子供に伝わりません。
 子供のころに読んでよく知っている絵本でも、大人になって読み返すと様々な発見があるものです。また新しく書かれた絵本には、私たちの生き方や人生そのものを考えさせられるような深い内容をもった作品もたくさんあります。たかが絵本と決めつけず、先入観を持たずにいろいろな絵本を読んでみてはいかがでしょう。

 

日本語じゃなくて英語

 絵本の読み聞かせなら、翻訳本がたくさん出ているので日本語でもいいのでは…と思われかもしれません。日本語訳版は私たちがすぐに理解できるのでとても便利ですし、入手することも図書館で借りることも手軽にできます。そして地域ごとにさまざまな団体が絵本の読み聞かせを実施しています。家庭で父親・母親が子供たちに読んであげるのは、やはり翻訳本ということになります。翻訳本がどんどん出版されて簡単に手に入るのは、日本の翻訳文化の歴史があるからで、それは素晴らしいことです。しかし、翻訳本にはやはり限界があります。原書でしか味わえない楽しみがやはりあるのです。
 原書ならではの面白さのひとつに「音」があります。マザーグースが韻を踏んでいることには先ほど触れましたが、絵本にも「音」を意識して書かれたものがたくさんあります。もう20年以上も前に亡くなった絵本作家による”Dr.Seuss”(ドクター・スース)シリーズは、欧米の子供たちには絶大な人気があり、小学校の副読本にも採用されているほどです。彼の絵本の魅力は、その登場人物の不思議なタッチにもありますが、何といっても各ページすべてに韻を踏んでいる文があることです。一例として”HOP ON POP”という絵本の中のいくつかのページをご紹介しましょう。(*下線は筆者)

MOUSE
HOUSE
Mouse on house.

ページ 6

: HOUSE
: MOUSE
: House on mouse.

:    7

: DAY
: PLAY
: We play all day.

:    14

: NIGHT
: FIGHT
: We fight all night.

:    15

各ページが3行の文からなっていて、各行の終わりの音が見事に韻を踏んでいます。6~7ページでは下線部の音が[aus]、14ページでは[ei]の音に、15ページでは[ait]の音に統一されています。文字で見ても面白いですが、声に出して読んで見るとそのリズミカルな響きが耳に心地よく聞こえます。
 このような絵本は幼児や低学年の子供向けに書かれたものですが、各行末に同じ「音」を配置する「脚韻」という手法は絵本だけでなく歌詞などにも広く使われています。楽しい絵を見ながらこのリズミカルな音を聞いていると、子供ならずとも楽しい気分になってきます。こういう絵本はやはり原文で声に出して読むのが一番です。

「おおきな木」の活動

 木曜・土曜のグループはそれぞれ2か月に一度の読み聞かせ会で発表するために、テーマを決めて、どんな本を紹介するかを話し合い、その本や作者について調べ、翻訳本のあり・なしを確認し、担当者を決めて各自が読みの練習をします。発表当日も早めの時間に集合して最後のリハーサルを行い、本番に備えます。
 昨年度は中央図書館の改修工事のために半年以上の閉館期間がありましたが、初めての試みとして「英語の絵本セミナー」を中央区民センターで2回開催し、多くの参加者と英語の絵本の楽しさを分かち合いました。最初は「文字のない絵本」からスタート。文字がなくても、絵だけでこんなにいろいろな感情やストーリーが伝わるということを実感してもらいました。中には現職の英語の先生も参加していましたが、「まさに目から鱗が落ちる」思いであったと感想を述べられていました。また今までには、TSUTAYA新琴似店や円山動物園内のCAFEなどでも読み聞かせ会を開催したり、高文連の図書局部会の研修会で絵本の楽しさを高校生の皆さんに紹介したりという活動も実施しました。もちろん我が札南の図書局も参加していました。
 定例の読み聞かせ会は、通例毎月の第3週に実施されますが、中央図書館の都合もあって変更になることもあります。具体的にはFacebookで必ずお知らせしていますし、道新や朝日新聞などで紹介してもらうこともあります。また各区の図書館にはチラシを配布していますので、ご覧の上でぜひ一度中央図書館まで足をお運びください。

*Eメール ookinaki2000@gmail.com
 Facebook 「おおきなき さっぽろ

 

新田 哲史 プロフィール
 
1967年札幌南高校卒業(17期)

札幌市労連退職者連絡協議会 副会長
札幌市立高校退職教職員協議会 会長
一万人の第九北海道 実行委員会代表
読み聞かせボランティアサークル おおきな木