故 箱﨑陽一先生の志を引き継いで
故 箱﨑陽一先生の志を引き継いで
秋山孝二(南19期)
長年、札南高教諭として学校林活動にご尽力された箱﨑陽一先生のご逝去について、学校林関係者の方々にはすでにご報告済みでしたが、そのご業績を広く同窓の皆さまにもお伝えしたく、六華だより編纂委員会のご承認を頂きました(最後に関連サイトを記載)。
2018年6月12日午後、札南高松本事務長から電話があり、箱﨑陽一先生が13時32分にご逝去との第一報を受けました。その夜、奥様の瑞枝(みずえ)さまから詳細のご報告があり、朝は意識がはっきりしていましたが、最後のパソコンの仕事をやり終えて、昼過ぎにご親族に見守られるように息を引き取られたと。今年の東京六華同窓会会誌は、幹事当番期の河上弥生さん(南35期)にお願いしてすでに届いており、意識のあるうちに奥様が読み上げて、先生は記事内容を知り、大変喜んでおられたとのご報告も聞きました。ギリギリ私たちが先生のご意思を受け継いでいることはお分かり頂けたようです。
お通夜の席で、私に弔辞をと奥様さまからお話があり、私は深夜まで溢れる感謝の気持を整理して以下の弔辞を認め、告別式で読ませて頂きました。式では弔辞はこの一本、二日とも家族葬とは言えたくさんの参列者で会場は溢れていました。
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弔辞
一般財団法人 札幌南高等学校林理事、故箱﨑陽一先生のご霊前に、謹んでお別れの言葉を申し上げます。
つい二日前の午後、札幌南高から「箱﨑先生ご逝去」の報が届き、私はにわかには信じがたく、しばし呆然としておりました。というのも、年明けから肺炎等で体調を崩されていると伺っていたので少々心配していましたが、先月二十五日に病院を訪問して久しぶりにお会いした姿が、お声にも力があり、ことのほかお元気とお見受けしていましたので。
私にとって、学校林財団との出会いは箱﨑先生との出会いでもありました。私が理事に就任して間もなく、現役の教諭として地道に活動されていた箱﨑先生は、植林・伐採一辺倒の活動から、多様な生態系としての視点、教育・研究の場としての視点、言い換えると環境林・教育林としての展開を提案し続けていらっしゃいました。
今年百七年目を迎える学校林、当初の焼け野原から植林を軸に立ち上げた壮大な森づくりは、この十数年、大きく変貌してきています。箱﨑先生をリーダーに、これまでの保全事業から環境林・教育林としての価値を創り始めました。
昨年のゴールデンウイークの合間、箱﨑先生とご一緒に、水芭蕉も真っ盛りの湿地で、シイタケ、ナメコ他の植菌をオリジナルの「YH法」はじめ、幾つかの方法で行いました。そして、簡単な昼食の時間は、箱﨑先生のフォトコレクションの回覧時間、いえ、正確にはご自分で撮ったのですから「箱﨑ギャラリー」でしょうか。鮮やかなエゾエノキの葉を背景に、国蝶オオムラサキの多彩な写真の数々、じっと待っての接写レンズでの撮影は、かなりの忍耐力が必要でありまさにその執念と情熱に脱帽でした。
また昨年は、学校での取り組みの論文テーマ「“学校林にはばたけ国蝶オオムラサキ”をスローガンに ~オオムラサキの保護活動を中心に八年間実践した環境教育の総括~」で、公益財団法人下中記念財団第二回表彰事業の最優秀賞を受賞されました。東京での表彰式には私も応援で駆けつけ、箱﨑先生はご夫妻でご出席、素晴らしい受賞スピーチでした。その論文の最後に、「退職後も学校林財団理事会や企画活動委員会の構成メンバーとして、準絶滅危惧種であるオオムラサキの保護に向けた企画・研究活動等に携わり、継続できる喜びを感ぜずにはいられない」と記されていて、私も昨日までそう信じておりました。
白旗山の一部をなし、複雑な沢や尾根をもつ多様性と魅力のある学校林。この森を潤した水は、厚別川から石狩川へ、そして日本海へと注ぎ、海の命とつながる位置にあります。そしてここはまた、教育の場であり、同窓や地域の交流の場であり、天然資源を生み、地域経済に資する場であり、世代間の架け橋でもあります。 連綿と続く札幌一中から札幌南高の歴史とともに歩んできた学校林は、これからも六華同窓の縁と、地域とともに、美しく豊かに続いていくでしょう。先月二十五日、私が病室を離れる時、「学校林は同窓のためだけのものではなく、広く市民に開かれたものであるべき、私はそう信じている」とのお言葉、私は忘れることはありません。
箱﨑陽一先生、この学校林でのご業績が、言い尽くせぬ貴いものとして私どもの心にしっかり残っております。「箱﨑プロジェクト」の実践は、松本美奈子さん、宮本敏子さんをはじめとする強力な女子力、「オオムラサキ・キノコチーム」として新たな担い手たちが立ち上がり、一歩一歩前に進んでいます。「六華の風」になって、あの大きな空を吹きわたり、百年、そしてさらに先まで見守って頂きたいと思います。歴史に刻まれたこの財産と箱﨑陽一先生の生前のご尽力に深く感謝するとともに、これからも永く継承し力強く歩んでいくことをお誓いし、心よりご冥福をお祈り申し上げます。
どうか安らかにお眠り下さい。
平成三十年六月十四日
一般財団法人 札幌南高等学校林
理事長 秋山 孝二
第93号 の記事
2018年10月1日発行