六華だより

性別を変えた同級生。母校で自らの経験を語る

第99号

中田 彩仁(南61期)

 今年の3月、私は札南生に向け講演する機会をいただきました。テーマはLGBT。現在男性として生きる私が、女子高校生だった当時を振り返りながら、自らの経験を伝えました。その様子を取り上げたニュースを見ていただいた六華だより編集部より連絡いただき、今回寄稿させて頂く運びとなりました。

HTB北海道ニュース「性別を変えた私の同級生。母校で自らの経験を語る」 (※クリックするとYouTubeのページにリンクします。)

LGBT

皆さんも最近耳にすることが増えた言葉かと思いますが、改めて一緒に考える機会となれば幸いです。

LGBTとは

 生まれながらに同性が好きな人、男女両方に恋愛感情を持つ人、心の性と体の性が一致しない人など、性的マイノリティの人たちを表す総称として「LGBT」と言われています(L:レズビアン/G:ゲイ/B:バイセクシュアル/T:トランスジェンダー)。私は、この中でいう“T:トランスジェンダー”にあたり、女性として生まれましたが、そのことに強い違和感・嫌悪感を持ち、現在は男性として生活しています(日本では、「性同一性障害」という言葉の方がメジャーかもしれません)。

 近年では、地方自治体で「同性パートナーシップ」が導入されるなど、LGBTを取り巻く環境は少しずつ良い方向へ進んでいますが、日本ではまだ同性婚が認められていなかったり、いまだ学校や職場での心無い差別や偏見に苦しむ当事者が多くいるなど、厳しい現状が根強くあることも事実です。

 電通ダイバーシティ・ラボの調査(2018)によると、LGBT層に該当する人は8.9%(約11人に1人の割合)。「自分のまわりにはいない」「当事者に出会ったことはない」という声もよく聞きますが、それは“気づいていない”だけかもしれません。

自然体でいられた高校時代

 性同一性障害と聞くと、幼少期から性別への強い違和感を持っていたと想像する方も多いかもしれませんが、私の場合、その確信は比較的遅かったように思います。

 特に札南時代は、性別に悩む暇もなく、陸上に明け暮れた日々でした。基本的に、毎日ジャージで登校。朝練をして、2限後には早弁を済ませ、昼休みはウエイトルームへ行き、放課後は部活。当時からかなりボーイッシュではありましたが、札南の自由な校風、自律した学友に恵まれ、皆、一つの個性として私を受け入れてくれていたように思います。高2時には、走り幅跳びで念願のインターハイにも出場し、文武ともに豊かな高校時代を送ることができました。今になって、そうした環境のありがたさを改めて感じています。

写真上段、賞状を持っているのが中田

何者かを模索した大学時代

 転機は、大学1年の終わりでした。留学のため、女子サッカー部を辞めることを決意し、これまで部活に大半を占められていた生活から、自分自身と向き合う時間が増えた時でした。それまでは「スポーツをやっているからボーイッシュなんだ」と信じていましたが、部活を辞めても、女性らしくなるどころか、むしろ、筋肉が落ちて女性らしい体型になっていくことへの嫌悪感が増していき、まわりの大学の友達は化粧をし始めたりする中、そこにも同調できない自分がいました。

 この性別の悩みの正体は何なのか。様々な当事者のブログ等を読み漁る中で、トランスジェンダーの方々の経験を読んだ時、「自分もこれだ」と腑に落ちた感覚がありました。きっと、それまでは真剣に性別に向き合うことを無意識に避けていたのだと思います。それはパンドラの箱のようなもので、気づいてしまったら乗り越えなければならないいくつもの高い壁があることをどこかで悟っていたのだろうなと。でも、スポーツを辞めてもなお“普通の女子”になれない自分は、もうトランスジェンダーであることを受け入れざるを得ないのだという、諦めに似た感覚すらありました。

自分らしく生きる道を模索する

 トランスジェンダーと確信したとはいえ、すぐに男性になれるわけでもなく、むしろそこからがスタートでした。家族、友人へのカミングアウト、改名、手術など、一つずつ向き合いながら、家族とも何度も相談しながら、最終的には、社会人3年目の冬、2019年末に性別適合手術を受け、戸籍上の性別も男性になりました。健康な体にメスを入れることは、親の立場からすれば簡単に容認できないことだろうと子供ながらに察してはいましたが、最終的には私の選択を尊重してくれたことに感謝しています。

 また、新卒で入社した会社は、外資系ということもあり、LGBTをはじめとするダイバーシティを大切にする社風が浸透する中で、自分の経験を社内外に伝える機会にも多く恵まれました。そうした過程を経て、少しずつ今の自分の生き方を肯定し、自分自身に自信を持つことができたように思います。

変わらないこと

 性別を変えてから再会した同級生も多くいますが、彼らからよく言われるのは「結局、彩仁になってもあんま変わってないよね(笑)」というセリフ。こちらとしては、「これでも結構大変なハードルを越えてきたんだぞ…!」と言いたくもなりますが、変わらず接してくれること、そして「変わっていない」という言葉がやはり嬉しくもあります。
本質はそうなのだと思います。私という人間はそう簡単に変わらないのです。男女で分けたり、LGBTという言葉で括ったり、切り取ればきりがないですが、結局、一人ひとりにそれぞれの自分らしさがあり、それを尊重し合える社会である以上、望むことはありません。

 10年前に感じていた札南の居心地の良さは、そうしたことを体現した小さな社会のような場所だったからなのかなと思っています。

<参考>
札南での講演の他、家族へのインタビューを含めた様子も取材いただきました。
よろしければ、ぜひご覧ください

性別を変えた同級生「女性であることに違和感」(※クリックするとYouTubeのページにリンクします。)

中田 彩仁(なかた さやと)

1993年、札幌市生まれ。大学院卒業後、外資系コンサルティングファームに入社。本業の傍ら、社内外でLGBTの活動に従事。2020年には、LGBTに関して顕著な活動実績を残した若手に贈られるTop 100 Outstanding LGBT+ Future Leaders (INvolve社・英国)を受賞。2021年8月より、京都にてサッカークラブの経営に関わるベンチャー企業に参画中。