夕張色のテキスタイル ~ 故郷を舞台に卒業制作
鈴木 菜々子(南67期)
鈴木菜々子さんは今年、愛知県立芸術大学美術学部を卒業したばかりの社会人1年生です。卒業制作として、小学2年生まで過ごしたふるさと夕張をモチーフにしたテキスタイル(布)をデザイン。その布を夕張市内で無料配布したところ、多くの市民がその布を使った手芸作品を持ち寄り、大評判となりました。一連の取り組みは「特に顕著な成績を挙げ、他の学生の模範となった」として大学の学内賞にも輝きました。現在はデザイナーとして働く鈴木さんに、ふるさとへの思いが詰まった卒業制作を振り返ってもらいました。
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「クッションができたよ。すごく素敵でしょ」「バッグを作ってみたの。似合うかなぁ」。嬉しそうに作品を携えるおばさま方とのおしゃべりがつきません。夕張で暮らす皆さん、とにかくとっても器用なのです。こうして見せてもらった作品は100近くになるでしょうか。
昨年12月の1カ月間、夕張市拠点複合施設「りすた」の一角を使わせてもらい、大学の卒業制作の一環として「夕張色のテキスタイル」を配布する催しを開きました。テキスタイルとは布のことです。9月から夕張に滞在し、その間に夕張市内で作った4種類の布を、制作過程などを記したパネルとともに展示しました。布は幅約1メートルで4種類合わせて長さ約60メートル。種類ごとにロール状に巻いて傍らにハサミをおき、みなさんに自由に切って持ち帰ってもらいました。
配布を始めて4日目くらいには、もう手芸作品を仕上げて、見せてくれる方々が次々とやってきました。いろいろおしゃべりをしながら、作品と作った方の写真を撮影させてもらいました。布はほぼ1週間ですべて配り終えてしまいましたが、その布で作った作品が代わって会場を彩りました。その後、もう1種類、布を追加配布しましたが、こちらもあっという間に品切れとなりました。想像の倍以上の反響で、たくさんの方に喜んで頂けて、すごくうれしかったです。
布を作る時も、大勢の夕張の方に手伝ってもらい、ほとんどを夕張市内の工房で制作しました。最終的には5種類を作りました。3種類は夕張メロンの茎や葉を使った草木染です。初めてのチャレンジで、本やインターネットで調べて臨みましたが、最初は全然色が染まらないなど失敗を繰り返しました。あとの2種類はイラスト柄です。赤と青の屋根が並ぶ昔の炭鉱住宅街をモチーフにし、シルクスクリーンという技法で印刷したものを最初に作り上げました。このシルクスクリーンも、夕張の作家さんの工房や技術をお借りして共に作り上げたものです。最後の一種類は思い出の保育園や図書館、石炭の大露頭や今は閉鎖された遊園地のプールなどを描いて、印刷業者にプリントアウトしてもらったものです。こちらは12月20日から配布し、やっぱりあっという間になくなりました。
夕張と聞いて、どんなことを思い浮かべるでしょうか。財政破綻したまち。人口減が進み、高齢化率がものすごく高いまち。でも私にとっては、美しい自然のなかで、あたたかい人たちが暮らす、思い出深いふるさとです。
小学3年生のときに札幌に引っ越しましたが、それまでは、ずっと夕張の自然の中で育ちました。保育園時代は雨の日もかっぱを着て散歩に出かけ、夏は川遊び、冬は雪遊びを楽しみました。休日は父に連れられ山菜取りやスキーにも通いました。近所に住んでいるおじいちゃん、おばあちゃん方、保育園の先生方、みんなに見守られながら、育ちました。だからこそ学生生活最後の卒業制作は、夕張で何かをしたいと自然に考えました。
私がデザインという進路を意識したのは高校1年の冬からです。札幌南高校に入学して間もなく、将来の進む道を考える機会が訪れました。先輩方がそれぞれの仕事の魅力を語る「六華ゼミ」などを通し、何を目指すか、そのために何をすべきかを思い描くうちに、自然と「美術系への進学」に絞られてきました。私にとって一番ワクワクすることは、絵をかいたり、何か作品を作ったりすることでしたから。高校ではバスケットボール部に入っていましたが、部活が休みの日に美術系予備校に通いました。美術予備校では主に受験対策として、デッサンとアクリル絵の具、粘土などによる造形に取り組みました。休み時間には美術室で、油絵や日本画など、自由に好きなものを描きました。高校2年生のときに転勤してこられた佐藤仁美先生がとっても気さくに相談に乗ってくれました。
大学は愛知県立芸術大学に進学しました。両親に「国公立大学」を条件に認めてもらい受験した道外大学の1校です。地域とのつながりをより意識したのは、故郷・北海道を離れて1人暮らしを始めてからでしょうか。友人と二人で、大学のある長久手市のグルメスポットを話題にしたフリーペーパーを発行。それに目をとめた長久手市役所の方の提案で、コロナ禍に対応した飲食店のテイクアウトを紹介するリーフレットを作成する機会にも恵まれました。そんな中で、「生まれ故郷の夕張で何かしたい」という思いがどんどん膨らんでいきました。
しかし、最初は何に取り組むべきか、夕張にも何度も訪れながらの試行錯誤の日々でした。カレンダーを作ってみようか? それともまちの看板をデザインしようか? あるいはみんなに使ってもらえるようなベンチを作ろうか? そんなことを思いめぐらしつつ、小学時代の友人を訪ねるところからリサーチを始めました。友人のお父さんが夕張市職員で、街づくりの現状などについていろいろ話を伺うことができました。月1回、夕張の街中を散策する「清水沢まちあるき」という会が行われていることや、かつての炭鉱住宅を改装した活動施設「清水沢コミュニティゲート」の存在を知り、そこでいろいろな方とのつながりを作ってもらえました。夕張を舞台に芸術活動をしている方ともお知り合いになりました。「夕張の人と一緒に何かしたい」。そうしてたどり着いたのが、夕張らしい布を作りあげ、それを使ってさらに夕張の人たちに何か作ってもらうというアイデアでした。
今年4月から、デザイナーとして働いています。その自信をつけさせてくれたのは、夕張の皆様方です。私のデザインがふるさとの人たちに喜んでもらえ、今もいろいろな形で使って頂いていることが、とても嬉しいです。作品づくりを通じてふるさとの力を感じることもできました。すばらしい経験をさせてくれたふるさとの方々に、あらためて感謝申し上げます。
略歴
1998年生まれ。小学2年生まで夕張で過ごす。今年、愛知県立大学美術学部(デザイン専攻)を卒業し、面白法人カヤック(神奈川県鎌倉市)に入社。デザイナーとして活動中。
第99号 の記事
2021年10月1日発行