六華だより

コロナ禍でも健康を守る医療を!

第99号

山本 雄士(南43期)

 南43期の山本です。今回、貴重な機会をいただきありがとうございます。せっかくの機会とこのご時世ですので、私がコロナ禍の中で取り組んでいる仕事の紹介をさせていただきます。

 元々、心臓の内科医として働いていた私が、医療のあり方を変えたいと起業したのは2011年の2月です。病気にさせない医療、健康を守る医療を、データやコミュニティ(職場や地域)の力を使って実現するというミッションを掲げての起業でした。それから10年の歳月が経った今、私と会社は、世界中を混乱の渦に巻き込んでいる新型コロナウイルス感染症との闘いに身を投じています。

 感染症との闘いと言っても、患者さんの診察や治療をしているわけでも(現場の医療従事者のみなさんには本当に感謝です)、薬やワクチンの開発をしているわけでもありません。やっているのは「ワクチンの安全かつ適正な接種の推進」。これを民間の事業として進めています。世界中が今、ワクチンという武器で新たなウイルスという脅威から身を守ろうとしています。ワクチンは不安だという声、絶対に接種しないという声もあるなかで、日本も含め多くの国がワクチン接種を大規模に、迅速に進めようとしています。そんな中で、接種を不安なく、そして間違いなく普及させるための事業に取り組んでいます。

 具体的には、「ヘルスアミュレット」という無料アプリを開発し、新型コロナワクチンを含め日本で使われているワクチンの接種前後のケアをできるようにしました。接種予定日の管理はもちろん、どのメーカーのワクチンを接種したのか、どのロット番号だったかも記録することができます。自分だけでなく家族分の記録もできます。また、ワクチン接種をSNSでシェアできるようにしたことで、連日SNSに「ワクチンを接種したよ」「大丈夫だったよ」という投稿がされるようになりました。これは、個人を守るだけでなくお互いを守り合うために設計された機能です。

 このアプリの本当の強みはそれだけではありません。新型コロナウイルス、同感染症、そしてワクチンに関する情報を定期的に発信しています。テーマも、変異株ってなんだろう?、ワクチンって怖いの?、新型コロナのホント・ウソ、コロナ禍でメンタルを守るなど、多くの方が疑問に思うようなトピックを扱うようにしています。そして、なんといっても大きな強みは、ヘルスアミュレットが日本で唯一、新型コロナワクチンメーカーの公認アプリとなっていることです。ワクチンの接種記録アプリは他にもありますが、唯一のメーカー公認アプリである利点は非常に大きいです。

 実は日本では、メーカーがワクチンを宣伝しにくいルールになっています。みんなで接種しましょう!とか、安全です!などの宣伝ができないのです。ただし、自社のワクチンを接種した人に限ってある程度のワクチン情報を届けてよいことになっています。ところが、これまでは誰が自社のワクチンを接種したのかメーカー側ではわかりませんでした。この問題をヘルスアミュレットは解消したのです。そのおかげで、このアプリは日本で唯一、新型コロナワクチンを接種した後にメーカーからフォローアップが受けられるアプリとなったのです。

 今、日本で最も多く使われている新型コロナワクチンのメーカーであるファイザー社が、このフォローアップをヘルスアミュレットで始めています。東京では都の医師会が協力してくださり、ワクチン接種会場でこのアプリを紹介してくれています。また、企業では日本航空さんや西濃運輸さんといった大企業、自治体では福岡市さんなどがこのアプリの利用を推奨してくださり、ワクチン接種をより安全に、適正に広げようとしています。まさに、データやコミュニティ(職場や地域)の力を使って健康を守る医療を実現する、という起業以来のミッションが形になってきたと感じています。

 現時点ではまだまだ出口が見えないコロナ禍は、今もなお多くの人の生活や人生に多大な影響を与えています。そんな中でも、こうしたアプリを広く提供する(無料です!)ことで日常の回復に少しでも貢献できるのであれば望外の喜びです。今後も健康を守る医療の実現を続け、社会に役立てる事業を続けていきたいと考えています。

山本 雄士(やまもと ゆうじ)

1974年札幌市生まれ。札幌南高、東京大医学部を卒業後、同付属病院などで循環器内科、救急医療などに従事。2007年Harvard Business School修了。2011年に株式会社ミナケアを創業し、現在代表取締役社長。慶應義塾大非常勤講師などを兼務するほか、教育活動として山本雄士ゼミを主宰。これまで慶大クリニカルリサーチセンター客員准教授、内閣官房医療イノベーション推進室企画調査官などを歴任。2014年日本起業家賞受賞。ヘルスケア全体のシステムマネジメントを中心に、政策提言や講演活動を国内外で行う。共著書に「投資型医療 医療費で国が潰れる前に」 (ディスカヴァー携書)など。