六華だより

北海道発 菓子の可能性

第104号

長沼 真太郎(南55期) 

 札幌南高校卒業生の皆様へ。55期の長沼真太郎と申します。
高校では硬式野球部に所属し、甲子園を目指して毎日汗水を流しておりました。
現在は洋菓子きのとやなどでつくる洋菓子グループ「北海道コンフェクトグループ」を経営しております。
今回、六華だよりに寄稿させていただけること、大変嬉しく思っております。

「日本を代表する製菓企業をつくる」 

 自身が描くビジョンを、明確な言葉として発するようになってから10年が経ちました。 2013年に東京で株式会社BAKEという製菓企業を創業し、焼きたてチーズタルト専門店、シュークリーム専門店「ザクザク」、そしてアップルパイ専門店「RINGO」など多数の店舗を出店してきました。海外も11カ国ほどに進出し、会社もぐんぐん成長。もっとも成長曲線が上がり始めたタイミングで、投資ファンドに会社をまるごと売却してしまいました。2017年8月、私が30歳になったときでした。

 会社の成長に自身の成長が追いつかなかった。そして、ブランド作りは得意だが、会社の舵取りは苦手であった。そんな重圧の中で決断した売却でした。一緒に会社を築いてきた仲間を残し、私は社長も退任したのです。 
 
 大きな挫折を経て、渡米し経営について学び直す中、リジェネレイティブアグリカルチャー(環境再生型農業)に出合ったことが、次なるビジョンのきっかけを掴むことになりました。これは日本で挑戦するべきじゃないかと思い至り、帰国。現在は北海道に戻り2023年9月、「北海道コンフェクトグループ」を立ち上げました。きのとや、千秋庵、札幌農学校、SNOWS、CHEESE WONDERなど様々な北海道の地域性を活かした菓子ブランドに加え、お菓子のための原材料生産を目的とした環境再生型農業も手掛けております。


 日高町で放牧酪農場、新冠町で平飼いの養鶏場、そして札幌盤渓でも北海道大学と共同で実験牧場を展開、そこで生産される放牧牛乳や平飼い卵など良質な素材を使うことで、美味しいお菓子にさらなるが付加価値が生まれます。 

 「北海道のお菓子は勿体無い、そしてまだまだ大きな可能性がある」と信じています。 
北海道の菓子メーカーは、たくさんの優良な会社があります。新卒の就職ランキングでも珍しく菓子メーカーが上位にくる都道府県の一つでもあります。しかしながら、どの菓子メーカーも観光土産という枠組みに入りすぎて、北海道以外で販売されることが少ないです。こんなにも美味しいお菓子をこんなにも安く作れる場所は、世界で見ても北海道だけだと思います。
海外メーカーに目を移すと、様々なグローバルメーカーがたくさんあります。その中でも、イタリアやフランスなどには特にプレミアム菓子のグローバルメーカーがたくさんあります。国や地域特有のブランド力を生かしながら、一般の流通菓子よりも価値を高くグローバルに販売しているのです。また希少性をコントロールしながら、価格を保ち、国内以外で外貨を稼いでくる優良企業がたくさん存在します。 
 
 北海道も現在はインバウンドが活況であり、イタリアやフランスを将来的なロールモデルとし始めています。地域のブランドを生かしながらプレミアム商品を国外で販売し、外貨をしっかり稼ぐこと、それが北海道の菓子メーカーの目指すべき道筋であり、日本における次世代の菓子メーカーのあり方だと思っています。日本における大手製菓企業といえば、森永製菓や明治製菓など大手が様々ありますが、なかなか世代交代が行われていません。ぜひ北海道発で実現していきたいです。 
 
 現在はすでにインバウンドの盛り上がりで土産菓子マーケットは好況ではありますが、その先を見据えて取り組んでいきたいと思っています。 
 
 酪農や農業が盛んな北海道という地域特性を存分に生かしながら、北海道の素晴らしいお菓子をより多くのマーケットで、より多くの人に食べてもらう。そのミッションを追いかけ、昔から想い続けている「日本を代表する製菓企業をつくる」ビジョンに向かっていければと思っております。 
 
 ぜひ皆様の応援を何卒宜しくお願いいたします。 

長沼 真太郎(ながぬま しんたろう)

2010年に慶應義塾大学商学部を卒業後、丸紅の菓子食品課にて従事。
2011年、同社を退社し、株式会社きのとやに入社。2013年、株式会社BAKEを創業。
2018年スタンフォード大学客員研究員。
2021年北海道コンフェクトグループ代表取締役就任。