六華だより

秋野菜であふれるオフィス~農業専門税理士事務所の挑戦~

第104号

森下 浩(南44期)

 私達南44期は令和元年が同窓会幹事で、私は現役生向けの六華ゼミの講師を担当しました。南高に入ってから周りが皆賢くて人生初めての挫折を味わったこと、2年生当時の学年順位は250位でしたが志望校の北大には2年生時点で200位までしか現役合格していなかったこと、その資料を見た時に「それじゃあ250位から現役合格して後輩達の希望の星になってやる」と奮起し50位まで順位を上げて現役合格を果たしたことを紹介し、「事実は一つ、解釈無数」という言葉を伝えました。そして六華ゼミの4年後に、縁があって北大で現役生向けの同じような講演をしましたが、終わってから一人の学生さんが駆け寄ってきました。その学生さんはなんと六華ゼミにも出ていたそうで、「私も当時南高で落ちこぼれていましたが、『事実は一つ、解釈無数』の言葉で北大に現役合格することができました」と言ってくれました。私はあの六華ゼミで一人の後輩の人生を良い方向に導くことができ、それを北大で聞くことができて本当に嬉しく思いました。そしてこの度、同期の六華だより編集委員から執筆依頼がありました。私の経験を記すことが、誰かのお役に立てるのであれば嬉しいです。

 私は北大に入学して農学部に進み、農業者の方のお役に立っていると実感できる仕事をしたいと思い、主に一次産業の融資をする政府系金融機関の農林漁業金融公庫(現:日本政策金融公庫)に就職しました。京都、大阪、名古屋、札幌と転勤をし、主に農業融資を担当していましたが、現場を回っていると「確定申告が分からなくて不安だ」「経営を相談する相手がいない」「畑を売らないと相続税を払えない」などの相談をたくさん受けました。私は一人の専門家として農業者をお支えしたいと思い、税理士になることを決めました。働きながら7年かけて資格を取得し、平成24年に札幌で農業専門の税理士事務所を開業して今日に至っております。

 弊社の特徴は第一に農業を専門としていることです。約9割が農業のお客様です。秋にはお客様からいただいた農産物が職場で溢れ返ります()。業務内容は、税務会計、経営助言、法人設立、融資相談、相続申告、事業承継など多岐に亘ります。中でも最近は法人設立(法人化)が増えています。法人化は税務的な論点が多く、組み立て方次第で納める税金が大きく変わります。農地法の要件なども満たす必要があり、専門的な知識が求められます。高齢化や後継者不足が課題となる中で、農業法人が地域農業を支えることが期待されています。農業経営の大規模化に伴い、事業承継(相続税対策、株式移転など)のご相談も増えています。

 弊社の特徴の第二は、開業当初から在宅勤務・子連れ出勤制度を導入していることです。子育てしながら働くことができる環境を整えることで、働く場所が限られていた経験者や有資格の即戦力のママさんが集まり、活躍しています。クラウド会計やビジネスチャットツールの活用、ペーパーレス化などにより、自宅でも効率的に働くことができます。子連れの社内イベントも開催しています。食育を兼ねた田植え、稲刈り、いちご狩り、搾乳などの農業体験、ビンゴゲーム大会付きの忘年会などを行ってきました。弊社の取り組みは、札幌市のテレワーク事例集や新聞、テレビなどで紹介されました。

 平成27年には業界活性化のイベントの会計事務所甲子園に出場し、弊社の取り組みを発表した結果、全国優勝することができました。その年は全国から104の事務所が出場し、書類審査と地方大会を経て、5つの事務所が決勝大会に進みました。大阪オリックス劇場にて1000名超の観客の前で、各々の事務所が15分間のプレゼンテーションを行います。弊社は、北海道で農業を専門としていること、子育て中の女性が活躍していることや、キャンピングカーを移動事務所にして全道各地の農業者を回っているユニークさも評価いただきました。来場していた多くの女性が弊社に投票していたと伺いました。業界活性化の一助となることができたことを今でも嬉しく思っています。

 私がこれから力を入れていくのが、家族、職員、お客様を物心両面で幸福に導くことです。私は平成26年から東京の人材教育コンサルティング会社の研修を受けて「目標達成の技術」というものを学んできました。真の目標達成とは物心両面で幸せになること。それは技術で実現でき、技術なので誰でも体得できる。仕事でも家庭でも活用することができます。実は冒頭の「事実は一つ、解釈無数」の言葉もその学びで得ました。昨年、半年間の研修と試験を経て、その技術を体得している指導者であるベーシックプロスピーカーとして認定されました。この技術を自ら実践し普及することで、税理士、経営者、家庭人として、縁ある人々の物心両面の幸福を実現します。堅忍不抜の精神と高い志を抱いて、これからも貢献の人生を歩んでいきます。

森下 浩(もりした ひろし)

昭和50年11月生まれ。

北海道大学農学研究科修士課程修了。
農林漁業金融公庫(現:日本政策金融公庫)勤務を経て税理士事務所を開業。北海道税理士会常務理事。農林中金アカデミー認定講師として全国で公演を行う。