六華だより

Rikka Reading Live 雑感

第102号

熊谷 百合子(南21期)

 44期のI さんと「私たち六華で何かできないかな」とあわあわとした思いを語り合ったのが2016年の9月。俳優で声優で朗読家で怪談師の彼女は全国的にご活躍だが、ご主人のお仕事の関係で札幌在住。じゃあ、と朗読会を立ち上げた。それがRikka Reading Liveというわけである。

 局アナ時代に朗読の番組を持っていたことがあって、その魅力を密かに心の中で温めてきたのがこんな風に現実のものになった。まるで色とりどりの風船を空に放ったみたいな気分だった。当時はラジオの遅い時間帯に静かに語られる一種マニアックな番組だったのが、現代は「朗読会」というライブの形式をとることが珍しくなくなっている。ああ、こういうのもいいなあとスンナリ納得。

 忘れもしない2016年12月が第1回目だった。44期のIさんが夏目漱石の夢十夜から、私が山本周五郎の「柘榴」を朗読した。雪景色に浮かび上がる豊平館大広間が会場だった。
インターバルにワインとチョコレートや焼き菓子を準備したのだが、これも喜ばれた。それから2022年10月の第13回を数えるまでには、コロナ禍で飲食はご法度になったが、本来の朗読会の姿に立ち返ったような昨今である。

 さて、この間なんと多くの六華繋がりの魅惑的なアーティストをお迎えしたことだろう。ギター奏者、ピアニスト、声楽家の皆々様、また先輩、同期の会長、社長、院長の協賛を頂き、心強く、そして感謝でいっぱいである。また錚々たるマスコミ関係の後輩にもお世話になった。おかげさまで、一般の方々から「新聞見ました」とご予約いただいたものである。さらに六華の同窓の方々とそのご家族などが必ず何人かいらして、和気あいあいとした雰囲気を醸し出しておられた。

 こんなにたくさんの温かい応援のもと、心を耕すひと時を共有することができたのは望外の喜びである。

 直近2022年10月16日に実施したRikka Reading Live vol.13「Declamation 舞姫」は令和4年度の第1545回札幌市民劇場に選ばれた公演だった。森鴎外作「舞姫」。夜の闇に包み込まれようとするクロステル街の界隈に、主人公の太田豊太郎が入り込んでいく「舞姫」の設定には、鴎外の意外に深い用意が隠されている。今回は原作の雅文体ではなく、井上靖の現代語訳でストレートに「近代自我の確立と挫折のドラマ」としてお届けした。挿入音楽にはプロのピアニスト、声楽家をお迎えできた。

 おりしも森鴎外没後100年に当たり、札幌市制100周年でもある2022年にこの企画が通ったことは大変幸運であった。さらにタイムリーな幸運が続く。ベルリンで苦悩する主人公に寄り添って、ピアニストの42期のYさんがシューマン作曲幻想小曲集で陰翳をつけて下さったのだ。42期のYさんは12年間もベルリン滞在の経験を持ち、留学生の心情には精通しておられる。今回は鴎外に誘われたかのような巡り合わせだったと言えよう。そして同時代のドイツロマン派歌曲の数々を30期メゾソプラノ歌手のS さんが美しく歌いあげてくださって、作品の横軸ともいえる悲恋に甘い余韻を残すことに成功した。

 残念ながら令和4年の札幌市民芸術大賞、同奨励賞に選ばれることはなかったが、殆どがクラシック音楽、邦楽のリサイタルの中にあって、「朗読と音楽のコラボ」が札幌市民芸術祭にノミネートされたこと自体が新たな一石を投じたことにはならないか‥‥‥朗読は芸術ではない、文化でもないとは言われなかったのだから。そして朗読と音楽との化学反応にも注目して頂けたのではないかと振り返っている。

左から21期 熊谷百合子、30期 斉藤みゆき、42期 吉泉善太


会場の札幌文化芸術交流センター:scartsコート


 朗読とは、一人芝居でもなくナレーションでもなく勿論アナウンスとは全く違う分野である。言葉の持つ無限の力が一人ではない多くの人々を結びつける。日本の小説家の大家の作品にふれると日本語の語彙の豊富さ、奥深さに圧倒される。いま、私たちが知らなくても生活に全く支障がない日本語‥‥‥今差し当たって生きていくことになんら必要としない日本語の数々。スピーディーにSNSで繋がる現代では絵文字の方がぴたっとくるようになってしまった。しかし、あの見たことも使ったこともない日本語のニュアンスはどこへ行ってしまったのだろう。言葉の持つ万華鏡のような側面は感情の色彩ではないか。時代を経て心模様が画一的になっていくのかと妙な不安が心をよぎる。多くの作品を朗読していると、様々な切り口、テクスチュア、味わいがあって、心のやりとりがあってこそ豊かな日常ではないか、と小説家から問題提起のように突き付けられているような気がしてくる。

 人が一様でないように、人間の営みをこれが正解と言う風に割りきってしまったら嘘になる‥‥‥と言った小説家がいたが、その企みにのって朗読すると見えないものがみえてくる。彼ら、あるいは彼女らは言葉のプロだから変幻自在に人間を形創る。その書物の中の人間たちに血が通って生き生きと動き出してくるのが朗読である。共有して、共感して、人間の等身大の感情に浸っていく。千年の嘘、百年の真実‥‥‥?

 リラの会の六華女子のすさまじい活躍をSNSで拝見しつつ、素敵にご活躍の“しゃべりのプロ”である後輩たちと、いつかRikka Reading Liveで共演出来たらどんなに素晴らしいだろう、と夢を膨らませている。“六華同窓会はなにしろ宝庫ですから“と微笑んだ同窓の紳士がいらしたことを思いだした。各界でご活躍の傍ら楽器をつま弾かれる方々、プロの音楽家の方々でスケジュールが許せば是非Rikka Reading Liveにご出演いただきたいものである。

 現役南高校生への講演会や様々な形での六華同窓会の繋がり(就職相談会等)は本当に素晴らしい。一方、こんなささやかなステージでも少しずつ繋がっていけたらやっぱり嬉しいな、と思っている。

 2023年度 Rikka Reading Live vol.14の企画はまだ決まっていない。

熊谷 百合子(くまがい ゆりこ)

札幌市出身。
(株)ニッポン放送アナウンサーを経てフリーに。(一社)日本朗読検定協会プロフェッサー。2016年9月より朗読会“Rikka Reading Live”を立ち上げる。
その他2014年より「朗読ユニットふたりしずか」の活動を札幌市を中心に全道各地で開催。日本語の美しさと情感を伝えている。