六華だより

消費者被害に関わる弁護士として

第102号

原   琢 磨(南51期)

数字には「読み方」があります

 『令和4年版 消費者白書』によれば、2021(令和3)年1年間の消費生活相談件数は約85万2000件でした。そのうち、架空請求に関する相談件数は、2021(令和3)年1年間では約1万9000件で、ピークと見られる2004(平成16)年度の約67万6000件と比べると大幅に減少しました。

 ・・・といった文章を読んで、どう思われますか。

 架空請求に関する相談件数が減少しています。2004年度と2021年で「年度」と「年」でデータ集計方法に変更があるものの、2021年の相談件数は2004年度の相談件数の約2%であり、架空請求は減少しています。そういえば、架空請求に対して政府や社会での様々な取り組みがなされているという報道にも接します。

 本当にそうでしょうか?

 85万2000件、1万9000件は「消費生活相談」の件数です。「実際に生じた被害」の数ではありません。「消費生活相談」とは、都道府県等に設置された消費生活センターに行われた相談のことを指しています。消費者庁の「令和3年消費者意識基本調査」によれば、消費者被害にあった人のうち消費生活センター等の行政機関の相談窓口に相談したのは約8.7%です。単純に考えても、85万2000件、1万9000件というのは、消費者被害にあった人の8.7%の数字でしかありません。しかも8.7%という数字は、消費者被害にあったと気が付いた人のうちの8.7%です。消費者被害にまだ気が付かない人、気が付けない人、例えばマインドコントロールを受けている人、病気や障害にある人も考えると、85万2000件、1万9000件はまさに「氷山の一角」であることがわかります。消費者庁の推計では、2021年1年間で支出が発生した消費者被害・トラブルの件数は1556万件、既支払額(消費者が実際に支払った額や信用供与を受けた、つまり後で返さないといけない額)は約5.9兆円とされています。

私も消費者被害に遭いました。

 そうはいっても、相談件数が減少しているのだから、やはり架空請求は減っているのでは?

 架空請求をしている人は誰か。私は「プロ」だと考えています。つまり、架空請求によって生計を立てて家族を養っている人たちです。「プロ」は、多重債務被害などの消費者被害にあった人を、「受け子」「出し子」などとして加害者に仕立て、そのスマホや口座、個人情報を悪用する組織です。架空請求が減少したとすれば、「プロ」たちはどうやって生計を立てているのでしょうか。「プロ」の技術を活かし「新たな職場」に「転職」したと考えるのが自然ではないでしょうか。裏付けとなるデータがありませんが気になるデータはあります。『令和4年版 消費者白書』では、SNS関連の消費生活相談件数が2017年1年間に約1万5000件であったのに対して、2021年1年間では約5万件へと増加しています。電話等からSNSへと「職場」を変えている可能性があります。 

 「プロ」の手にかかれば被害に遭わないということは難しいです。それが「プロ」だからです。母校の先輩からお声がけいただき、このような原稿を書かせていただいていますが、かくいう私も被害に遭いました。先日、突然、クレジットカードが使えなくなり、驚いてクレジットカード会社に連絡したところ、いくつか会社名を言われて、購入しましたかと訊かれて、知らない会社だと答えると、カード情報を盗まれましたねと言われ、ショックでした。

消費者団体に関わるようになって

 誰でも「プロ」の手にかかれば消費者被害に遭う可能性があります。そして、その被害を回復することは難しいです。事業者を特定できない、特定できても行方が分からなくなるということが日常的です。そのため予防が大切です。予防には一人一人の消費者問題に対する啓発が大切です。ただ、個人の意識付けには限界があります。消費者被害を生まないように法律や制度、社会のシステムそのものを変えていく必要があります。電話機をすべて特殊詐欺対策内蔵型(実際に売られています。)に代えれば、特殊詐欺はもっと減ります。事業者の皆さんにとっても、悪質な事業者が利益を得て正直者が馬鹿を見るようになってしまうと業界自体が衰退します。事業者団体が自主規制に取り組むことには意味があります。

 それでも消費者被害はなくなることはないと思います。日々、仕事の中で実感していますが、事業者と消費者との間に情報の質と量、交渉力に構造的な差があります。また、「プロ」の事業者が廃業することはないでしょうから、消費者被害はなくなりません。

 現在(2023年時点)、認定NPO法人消費者支援ネット北海道(通称:ホクネット)の事務局長を務めています。ホクネットは、内閣総理大臣(消費者庁長官)から道内で唯一の「適格消費者団体」との認定を受け、消費者契約法等に照らして不当な契約条項の使用差止や不当勧誘の差止の訴訟を提起する権限を持っています。さらに、多数の消費者に共通して生じた集団的被害を回復するための訴訟や手続を行うことができる「特定適格消費者団体」との認定を受けています。道内で唯一、全国で4つしかない団体の一つです。

 これらの制度の特徴は、消費者一人一人の紛争につき依頼を受けて解決するということはできないのですが、消費者全体を代表して団体の判断として消費者のために訴訟等をするという点にあります。日本の司法制度の中でも特異な制度です。ただ、弁護士のように消費者から費用をいただいて裁判をするわけではないため、ホクネットは消費者の皆さんからの寄附で支えられています。ホクネットへの寄附は税控除の対象にもなりますので、消費者被害の回復のため、同窓のご縁でぜひご寄附をお願いいたします。

最後に~父のこと~

何事においても秘密を守るという弁護士の仕事柄、映画やドラマにでも出てきそうな法廷や事件の話もせず、抽象的な原稿になりましたことをお許しください。そのついでに、もう一つだけお許しいただいて、お伝えしたいことがあります。

 私の父は、昭和24年生まれで、札幌南高校を昭和43年3月に卒業しました。(父が在学中の話かどうか明らかではないのですが)学生の運動によって制服が廃止されて私服になったなど、札幌南高校がいかに自由な校風であるかを子どものころから聞いて育ちました。その結果でしょうか、私も私の弟も札幌南高校の卒業生になり、いろいろと自由な高校生活を送らせていただきました。

 その父が昨年2022年4月に他界しました。父に代わって、父の同期の皆様に心よりの感謝を申し上げます。父が生きていれば私が六華同窓会で記事を書かせていただいたことを父は大変喜んだことと思います。

 ただ、私自身は、六華同窓会の集まりに呼ばれたことも出席したこともなく、本当に同窓会に入会しているのか若干不安です。

原 琢磨(はら たくま)

弁護士(原総合法律事務所=札幌弁護士会所属)。札幌市生まれ。東京大学法学部から同大法科大学院に進み、2010年に弁護士登録。2021年から認定NPO法人消費者支援ネット北海道(通称:ホクネット)事務局長。