六華だより

地域包括ケアシステムと調剤薬局の薬剤師

第98号

岩浪(早坂)佳晃(南38期)

 私は16年前から地域医療、在宅医療と呼ばれる仕事に携わって来た薬剤師をしています。
 薬剤師の働くフィールドは多岐に渡っていて、在宅医療の仕事はその中の一部です。
 私の在宅医療の始まりは雄武町で、そこから北見市、足寄町、函館市、南富良野町と転勤し、所謂人口の多い地域と少ない地域での在宅医療を経験しています。
 薬剤師にとっての在宅医療は都会と地方で行う仕事内容が違う訳ではありません。
 強いて感じた違いを述べるなら住む場所での独居高齢化率の差であり、訪問薬剤師の職能には差がないと感じています。地域には高齢者が多いということです。
 入院、外来に続く第三の医療と言われる在宅医療は薬剤師にとっては患者さん個々人との関係が強いです。
 本来なら訪問薬剤師とはその地で患者さんの最期までが理想です。転勤で地域を変えることには私も疑問を持っています。

函館勤務時代、在宅医学会での発表に参加しました=写真右端=。当時、函館の総合病院に勤務していた佐川拓医師(南55期)=写真中央=らとチームを組みました



【訪問薬剤師とは】

 ここで訪問薬剤師と書きましたが、皆さんの訪問薬剤師のイメージはどうでしょうか?
 地域包括ケアシステムとは「地域の実情に応じて、高齢者が可能な限り、住み慣れた地域でその有する能力に応じ、自立した日常生活を営むことが出来るよう、医療、介護、住まい及び自立した日常生活の支援が包括的に確保される体制」と定義されています。
 最近になって訪問薬剤師の在宅医療がクローズアップされ始めましたが、16年前は完全にマイナーな存在でした。
 地域連携の中に唯一、薬剤師の姿がかつてはありませんでした。
 現在でも実際にどんな仕事をしているのかは薬剤師でも分からない方がいます。 
 訪問薬剤師の仕事とは調剤薬局で渡された薬がどうなっているのかをフォローする為、施設や自宅に出向くことがほとんどです。調剤薬局から自宅という地域生活の場に薬剤師が出向きます。
 算定では医療保険と介護保険で認められた点数があり居宅療養管理指導、もしくは在宅患者訪問薬剤管理指導と呼ばれます。基本は週1回の訪問が認められています。
 時間での制限がないのも訪問薬剤師の特徴です。
 薬剤師への依頼は様々な分野の方からありますが、ケアマネジャーや医師からの打診が現在は大半を占めています。
 病名は全てを網羅していますが、実際は認知症絡みや透析、ガン末期が多いです。 
 ではどのような時に調剤薬局の薬剤師に訪問依頼が来るのかと言うと基本は服薬がしっかり出来ていないというケースが多く、またそうイメージされている方も多いと思います。
 薬はしっかり服用されて初めて効果や副作用が判断出来ますが、高齢化社会や独居、認知症、他科受診の(ジェネリック医薬品の種類の多さ)にて当然、残薬は発生します。
 この残薬は実際に現場を見ると、処方された薬が全てゴミ箱にあったなど唖然とする事が多いです。
 残薬解消は国の医療費削減に効果があると感じています。
 せっかく退院しても服薬の問題でまた入院になってしまうと、よく医療機関から言われます。
 本人も入院より自宅で療養したいと話されますが、ではどうするかと考えるのが私の仕事です。

とある患者さんを訪問した帰りの写真。手がつけられないまま残っていた半年分の薬を回収しました

【訪問薬剤師の仕事】

 薬学部では薬の勉強はしましたが、飲まない患者さんにどうアプローチするかは学んでないので日々の実践が経験となっています。
 訪問薬剤師とはただお薬を届けたりボックスにセットするだけでなく薬剤適正使用や他科併用薬の整理、残薬解消、服用しやすさの提案、ポリファーマシーや処方カスケード、未然の副作用回避も行い多職種との情報共有をし、場合によっては往診同行や受診同行もしています。
 受診に同行して主治医と直接話せるメリットは非常に大きいです。
 時に主治医に真剣になって頂き、それが服薬への患者さんのモチベーションアップに繋がることも多いです。
 訪問薬剤師とは、調剤薬局で薬を渡すだけではなく訪問により薬と生活を結び、自宅で療養してもらうサポートもしているという事です。
 調剤薬局の投薬ではプライバシーの点で生活や個々の患者さんの想い(ナラティブ)は見えにくいです。
 薬は自宅に来て初めて真実の顔を現わしてくると16年の経験から学びました。
 入院でも施設入所でもない自宅療養継続には服薬という言葉がキーワードと感じ、更には今後、在宅看取りも増加する中、在宅訪問する薬剤師が増えるような啓蒙活動もしています。
 また、地域で療養していて急な体調悪化による急性期病院への入院などもあり、急性期基幹病院との連携も普段から取ることが薬剤師の世界でも重要と考え、基幹病院薬剤部や地域連携室とのコンタクトも頻繁にとっています。
急性期病院との連携体制も常に考えて訪問をしています。
 昨今の未曽有のコロナ禍にて在宅医療も大きな影響を受けていて、深い関りが難しくなっていますが、患者さんにとっての日常の薬剤服用が無くなる訳では無い為、出来る限りの感染防御対策をして業務に取り組んでいます。

認知症の高齢者の方を訪問、このメモとともに翌日飲む薬を机にセットしました。どうすれば薬をきちんと飲んでもらえるか、日々挑戦です

【訪問薬剤師の私の信念】

 悲しい別れや入院になってしまったケースもありましたが、地域は不便ではあるが不幸ではない。人生の途中でのご縁を頂いた自宅での笑顔を沢山見て、沢山のナラティブを聞いて微力ながらその思いを叶えてあげたい。そう信じて日々頑張っています。

函館時代のお気に入りの写真です。「お面」は在宅医療のレジェンドと言われる佐藤伸彦医師(富山県)。患者さんの想い(ナラティブ)を聞き出す名手です

岩浪(早坂)佳晃(いわなみ よしあき)プロフィール

1988年(昭和63年)、札幌南高校卒。東邦大学薬学部(千葉県船橋市)を卒業し、地元北海道に戻る。病院薬剤師を経験し、オホーツクの雄武町国保病院時代での在宅訪問をスタートに、調剤薬局ナカジマ薬局(本社・札幌市)にて個人在宅と施設在宅を16年経験。現在は南富良野町で在宅医療と障害者施設の福祉と医療のリンクに挑戦中。