六華だより

札南野球部の魔力

第103号

和田 未来(札幌南高校2年・野球部データ班)


野球部データ班
左上:田中崇太郎、右上:長谷菜々美(女子部員でもあります)、左下:三崎杏菜、右下:和田未来

 札南野球部は、圧倒的なバッティングでどんな相手も撃ち破るべく毎日練習やトレーニングに励んでいます。長きに亘る試みと努力が今夏ついに結実し、第105回全国高等学校野球選手権記念南北海道大会 札幌支部Fブロック代表決定戦にて、前年度甲子園出場校の札幌大谷高校を11-7で破り、8年ぶりとなる南北海道大会出場を決めました。

 札幌大谷はリベンジを誓った相手です。昨年の春に練習試合で対戦し、34-4で惨敗。プライドも希望も完膚なきまでに打ち砕かれました。

 この年、札幌大谷は南北海道大会を制し、自分たちと甲子園出場校の実力差は30点分あることを自覚するところから74期札南野球部がスタートしました。

 どうすれば彼らに勝てるのか?  選手自らが考えた末にたどり着いたのが、フィジカルで彼らを凌駕し打撃力で勝つ、という戦略でした。スクイズを決められないならホームランを打てばよい。単純な理論です。選手たちは多くの方の指導のもとでウエイトトレーニングに励み、甲子園優勝校にも引けを取らないフィジカルができあがりました。

 しかし6年間屈し続けた「私学の壁」はなおも高く、秋の大会は立命館慶祥に敗北。一冬越え、フィジカルのレベルが更に上がり満を持して臨んだ春の大会も、札幌龍谷との3時間に及ぶ打撃戦の末敗北。それでも14安打を放つなど、手応えを掴みつつありました。

 そして迎えた夏。抽選の結果、札幌大谷と同じブロックになりました。勝ち上がれば決勝で当たります。74期にとっては、リベンジできる最後のチャンスでした。

 しかし、初戦からいきなり前年度南北海道ベスト16の私立・北星大附属とのカードとなり、大谷の前にまず「私学の壁」を乗り越えなければなりません。
 今までなら、どうせ勝てないと心のどこかで思っていたでしょう。下馬評も北星が勝つとの見方が優勢でした。それでも、試合前の選手は余裕そうで、これなら大丈夫だと私は安心しました。結果は、エース大山泰知の安定したピッチングと持ち前の長打力が上手く絡みコールド勝ち。6年ぶりに私学を撃破!これで満足…? いえ、そんなはずがありません。2回戦も4本塁打を放って勝利し、いよいよブロック決勝が迫ってきます。

 7月2日、勝負の日。ベンチ入り選手以外のメンバーも、この日に賭けてきました。
 データ班の私は、抽選会からの3週間ほぼ全ての時間を大谷のデータ収集に充てました。マネージャーの先輩方にも手伝ってもらいながら、2時間睡眠のギリギリの生活をしていたのが懐かしいです。春季大会で当番校だったことを利用し期間中の全試合の動画とデータを溜めていたので、それをもとに配球のパターンなどを出していました。
 グラウンドマネージャーはノッカーを引き受けたりして選手の練習に遅くまで付き合い、マネージャーは選手のサポートと野球部の宣伝に身を削りました。冒頭のプロ野球風ポスターを作ったのは1年生の佐藤マネージャーです。
 ベンチに入れなかった選手は日が暮れるまで応援の練習をしました。
 準備は万端です。

 プレイボールのサイレンが鳴ると同時に、1番・岡本和真が初球をフルスイング。打球はライトスタンドに飛び込み、1年越しのリベンジマッチ開幕の合図となりました。

 試合が動いたのは6回でした。札南の猛攻は打者一巡では止まらず、7番・岡田陽亮の2打席連発を含め計10得点を挙げます。今までの地道すぎる努力はこの1イニングのためにあったのかもしれません。皆の描いた札南野球が現実になった瞬間でした。

 その後、じわじわと追い上げてくる大谷打線に、1年前の34失点の記憶が重なります。ああ、こんなに打ってもまだ大谷には届かないのか…そんな思いが頭をよぎりましたが、ついに勝利の瞬間はやって来ました。9回二死でフライが上がり、センター浅野佑亮がしっかり捕球。念願のリベンジは、南北海道大会一の番狂わせという最高の形で果たされました。

 ここまで来られたのは、多くの方々の尽力のお蔭です。毎日お弁当を作って送り出してくれた保護者の皆さん、トレーナーの方々、全校応援に駆けつけてくださった先生と生徒の皆さん、遠くから応援してくださったOBOGの皆さん、そして選手の個性を引き出してくださった監督、内海先生、陰で支えてくださった山下先生に、心より感謝申し上げます。

 一般入学のみの公立校という学校柄、溢れる才能にまかせて幼い頃から野球だけに打ち込んできた部員はいません。中学の部活やクラブチームを引退後は道コンの結果に一喜一憂しながらひたすら受験勉強――皆さんにも覚えがあるでしょう、そんな日々を過ごしてきた人の集まりです。普通に考えて、中学野球界のスターをスカウトできる強豪校に勝てるはずがありません。その「普通」を時に超え、時に根底から覆すのが札南野球部の醍醐味であり、私を含め多くの人を引き付けてやまない魔力の源なのだと思います。

 優勝候補の一角だった札幌大谷を破ったことで、エスコンそして甲子園への道が見えてきたように思われましたが、南北海道大会の1回戦で北海道栄に惜敗し、甲子園への切符はお預けとなりました。来夏は甲子園を懸けてリベンジします。その中軸を担う75期野球部の選手を最後に抜粋してご紹介いたします。

 甲子園、そしてその先を目指して駆け抜けていきますので、今後とも札南野球部の応援をどうぞよろしくお願いいたします。