六華だより

ローカル&ローカルの多地域居住

第101号

大藤 将太(南54期)

 54期大藤将太と申します。高校時代は特に野球部を通じ、六華の皆様には多大なご支援をいただき大変お世話になりました。各方面においてご活躍されている先輩・後輩の皆様がいる中、小さな取り組みの日々を過ごす私にお声がけいただき、感謝申し上げます。
 ここ数年で、リモートワークが一気に浸透し、二地域居住も話題になってきたところではありますが、農村を行き来して暮らす人は数少ないのではないでしょうか。ローカルで多地域居住をしている私が今取り組んでいる事業について僭越ながらご紹介させていただきます。様々な業態の仕事に取り組んでおりますが、共通して向き合ってきたのは、自分の身近なもの、かけがえのない大切な自然環境がより良く次の世代につながるように生きていく、ということです。

 中学3年の時に見た札南の甲子園出場、札南野球部にどっぷり浸かった高校3年間。そんな密な時間を過ごした後、大学で東京に上京し、大都会でふと思い出したのは、実家の畑でした。祖父母まで農家だった家に育ち、自家菜園で育った野菜を日々見て過ごしてきた原風景を思い出し、農業・農村に興味関心が沸いたことを、今でも思い出します。
 大学在学中は、幅広く「農」に関わることに取り組んでいましたが、そんな中で大ニュースとなった、夕張市の財政問題。大自然、食料基地である北海道の魅力や可能性を感じていた一方で、社会資本の限界が真っ先にくる地域でチャレンジすることの必要性を感じ、大学卒業後は、北海道にすぐUターンして戻ってきました。
 
 北海道に戻ってからは、長い時間を函館の隣町、大沼国定公園のある七飯町で過ごしてきました。七飯町は西洋農業発祥の地と言われており、全国に先駆けて農業試験場を設けて実践してきた町です。西洋りんごや男爵いもなどは、七飯町から始まった歴史があります。その農地を耕してきたのが、「どさんこ」と言われる馬たちで、そんな農耕馬たちとの暮らしを過ごす21世紀の開拓を行う牧場(Paard Muse -パドミュゼ-)を立ち上げるべく、取り組みを進めてきました。当初は北海道新幹線の開業もあり、観光開発を中心に行ってきましたが、昨今、観光動向が厳しい状況も鑑み、現在は保育園運営(牧場のこども園スーホ)を中心とした暮らしに基づいた事業を行っています。


 スーホは普通の保育園とは異なることがたくさんありますが、特徴的なのは、朝飼い、昼飼い、夕飼いという、厩舎掃除や給餌などの動物のための時間が決まっている基本があるだけ、ということです。大人と一緒に子どもたちが馬やヤギ、鶏たちのお世話をしながら日々を過ごしています。地球のリズムに合わせ、自然と対峙して生きる動物たちと暮らし、いのちに寄り添い、あるがままを受け入れ、人間も自然の中で生かされる存在であることを学んでいきます。給食やおやつは和食中心、毎日手作り。アレルギーにも対応しています。自ら畑を耕し作物を育て、味噌も毎年作ります。調味料なども信頼でき、本物の味を大切にしている商品を選択しています。家族のように過ごすスーホは、自分の子育てそのものでもあります。
 ご縁もあり、七飯町からは遠く離れた積丹町においても牧場(積丹しおかぜ牧場)を運営しています。ここでは牧草と羊の生産・販売を行っています。羊については、積丹産の昆布を餌にするなどして、食肉として出荷を進めています。北海道といえば「ジンギスカン」の通り、羊肉の国内生産のほとんどが北海道ではあるものの、国内生産量と輸入量を比較すると、99%が海外産で、国内産は1%未満という状況です。現在100頭を超える頭数となってきましたが、事業化はまだまだこれからです。産業構造も含め、羊の生産については色々と考えねばならないと感じています。

 牧場事業と合わせて、菓子事業(自然とつながるおやつaimer -エメ-)も手がけております。アレルギー対応のお菓子を販売しているのですが、実は自分自身のこどもがマルチアレルギーだったことがきっかけでスタートしています。特に長男は、乳・卵・小麦・ナッツetc…とアレルギー反応が多数あり、乳児の頃は米にも反応していたので、どうすれば良いものかと夫婦で悩む日々でした。当然のように、食事について向き合う時間が非常に長く、ご飯もおやつも全部自分達で作って試行錯誤するしかなく、それがaimerの根幹となっています。これまでは卸売、受託製造、イベント販売という形で行ってきましたが、新たに製造販売店舗を黒松内町に開業予定で、来春のオープンに向け準備を進めています。

大藤 将太(おおふじ しょうた)
札幌市出身。
合同会社Teal Hokkaido 代表。高校在学時は野球部に所属。
七飯町/積丹町で牧場を展開する会社で役員を務める。現在、七飯町と黒松内町の往復生活。来春、アレルギー対応菓子と飲料水製造の小さな工房を黒松内町にオープン予定。