六華だより

殻を破って一歩踏み出す

第95号

山下純輝(南56期)

劇団四季にとって、26年振りとなる新作オリジナルファミリーミュージカル『カモメに飛ぶことを教えた猫』の演出を担当しました、南56期の山下純輝です。

この作品は、今年の4月20日に開幕し、来年の3月28日まで全国を巡り上演されます。

基本的には全国の小学生を無料招待するプロジェクト「こころの劇場」で上演されます。8月には利尻島にも伺い、利尻・礼文の子どもたちにも観てもらえる予定です。その道中、一般の方もご覧いただける公演があり、札幌でも上演されます。この作品が全国の皆さまにご覧いただけることを、非常に嬉しく思っています。

 

テーマは“殻を破って一歩踏み出す”

『カモメに飛ぶことを教えた猫』は、チリの小説家ルイス・セプルベダの児童小説を原作にしたファミリーミュージカルです。様々なテーマを湛えた作品ですが、舞台化にあたって、《殻を破る》というメッセージをメインテーマにしました。

殻を破るのは、主人公のひとりでカモメの雛であるフォルトゥナータだけではありません。

物語には、猫やネズミ、チンパンジーなど様々なキャラクターが登場しますが、彼らはそれぞれが自分という殻、いわば「エゴ」に覆われています。既成概念や、自分と違うものを認めない心など、いつのまにかとらわれてしまった“殻”を破るための一歩を踏み出すことが、この作品のテーマです。

このたった一歩を踏み出すことがどれだけ大変で、どれほどの勇気や覚悟が必要か。物事が複雑化する現代だからこそ、この“一歩踏み出す”ことの大切さを、ご覧いただくお客様と共有し、再認識したいと思い、この作品を創らせていただきました。

撮影:上原タカシ

演劇とは“文学の立体化”である。

劇団四季を65年牽引して来た演出家、浅利慶太先生が昨年逝去しました。劇団四季にとっても新たな一歩を踏み出す中での、26年振りのオリジナルミュージカルの創作。これは僕にとって大変なプレッシャーでした。この大切な時期に演出を任せていただいた僕自身が、そもそも演出することが初めてだったからです。

そんな不安の中で、僕が拠り所にしていた言葉があります。生前、浅利先生が常に言っていたことです。

―演劇は、文学の立体化である―

これは俳優であっても、演出であっても変わらない、舞台をつくる上でとても大切な言葉です。

演出にあたり、台本に書かれている作品の世界を忠実に舞台上で表現し、ドラマをお客様に届けること。それだけを意識しました。そうすることでやるべきことが明確になり、余計なプレッシャーを感じることなく、作品作りに集中することが出来ました。

お客様に作品を評価していただけることは、僕にとって最大の褒め言葉です。それは物語が持つ魅力が舞台上に立体化し、物語が客席に届いている証拠だと思うからです。

撮影:上原タカシ

野球部時代に培った、演出するうえで大切な力

作品を舞台上に立体化するためには、まず劇作家が書いた脚本を理解しなければいけません。それはただ表面的な字面、台詞を追うだけではなく、その裏にある文章には書かれていない動機、関係性、その場面が求める要素まで理解するということです。

物語を理解して初めて、どのように表現しようかという話になります。演劇は総合芸術ですから、俳優、舞台、装置、小道具、照明、音響、衣裳、床山と、様々なメンバーが意志をもってより良い舞台を創ろうと努力します。それを客観的に見て、ロジックをもって判断することが演出家の仕事です。

僕はこの力をつけていく上で、高校の野球部時代の経験がとても活かされました。

野球部では、限られた練習時間の中で、いかに効率よく効果的にパフォーマンスを上げることが出来るかを全員が考え、常に思考しながらプレイすることが求められます。常に考えながら戦っていた、高校時代に培った考える力が、演出するうえで必要不可欠であり、非常に役立ちました。

人生は素晴らしい。生きるに値する

御託を並べて恐縮ですが、お客様には純粋に舞台を楽しんでいただきたいと思っています。演劇はお客様が居てくださって初めて成立する芸術です。劇団四季は、観ていただいた皆様に「人生は素晴らしい、生きるに値する」と感じていただける作品を上演しています。また、文化の一極集中の是正を理念に、全国200以上の都市で公演を行っています。全国で活躍されている六華の皆様がお住まいの地域にも訪れているはずです。是非『カモメに飛ぶことを教えた猫』のように勇気をもって一歩踏み出し、劇団四季の舞台を観にいらしてください。

劇団四季 ミュージカル『カモメに飛ぶことを教えた猫』
https://www.shiki.jp/applause/kamome/

山下純輝 プロフィル

劇団四季 演出部

大学時代、『キャッツ』の観劇をきっかけに四季の俳優を目指す。2010年研究所入所。『ライオンキング』で初舞台を踏み、『ジーザス・クライスト=スーパースター』『ミュージカル李香蘭』『マンマ・ミーア!』『クレイジー・フォー・ユー』『アラジン』に出演。『カモメに飛ぶことを教えた猫』では演出を務める。