私のお仕事―臨床心理士・大学教員
生田 倫子(南42期)
私の仕事は大学教員/臨床心理士(いわゆるセラピスト/カウンセラー)です。家族問題、青少年の諸問題、組織問題、会社・産業組織における組織トラブルが専門です。大学教員として教育活動、臨床機関での臨床活動、カウンセラー養成、業界を発展させるための仕事もやっています。
不登校や非行問題、夫婦不和、セクハラ・パワハラ事案などは鉄板ですが、相談にはやはりトレンドというものがあり、最近はSNS上の対人トラブル、ゲーム中毒、婚活系、パパ活、熟年離婚、ネット上のお小遣い稼ぎ、新入社員トラブルなどなど、日進月歩の変化に対応しなければなりません。お受験にまつわる諸問題は熾烈すぎます(笑)。
総じて今の若い世代は、(我々が若い時に比べて)まじめ、堅実、完璧主義、コミュニケーション能力が求められる傾向にあり、裏を返せば失敗を恐れる、失敗時は大ダメージ、コミュニケーション能力が低いと生きづらい、と感じられます。問題のバリエーションは多くなっていますが、昔より病態がライトになっているのは比較的軽症の段階で相談してくれるようになったのかもしれません。
カウンセリングは受容的に話を聞くだけではなく、実はいろんなメソッドがあります。私が専門としている家族療法・ブリーフセラピーは、割に積極的にアドバイスや介入をします。問題を持つ本人が来ない場合も、周囲から間接的に働きかけていきます。当たり前ですが一人として同じ人間/背景はなく、お勧めする対応も全て違います。
最近では、家族間殺人の動機解明依頼(裁判所での専門家証人)、内閣府、海上保安庁や会社からの人間関係に関するトラブルに関する研修やコンサル依頼も増えてきました。
産業系の相談でパワーハラスメントの事案を受けることも多いですが、加害者とされる方のタイプは(バリエーションが多いものの)ほぼプライドが高く、「被害者に非がある。」とおっしゃいます。もはやカウンセラーというより猛獣使いです(笑)。会社などでメンタルヘルス・セクハラ・パワハラ対応などの研修をすることもありますが、「パワハラタイプあるある♪」などと面白おかしくお話し、「俺やばい!!」などの笑い声の中、トラブルを未然に摘み取る工夫についてお伝えしています。
家族間殺人の動機解明は、実はこれは札南の同期、石側弁護士に依頼された仕事でした。高校卒業後どこで再会したのか、年賀状だけお互い惰性でやり取りしていた石側君。ところが事件の動機がわからず困り果てたときに思い出してくれて、ちょうどその私が家族トラブルの専門家でビンゴだったという(笑)。拘置所や地裁などいろいろ行きましたが、石側弁護士は他の弁護士や検察官にも尊敬され、非常に親身に丁寧にいい仕事をしていました。普通は無期懲役か死刑だろうという刑期が札南コンビで25年になりました。おごってもらったステーキはとても美味しかったです。同窓のよしみで一緒に仕事ができたいい思い出です。
カウンセリングは大変ではないかとよく聞かれますが、難しいケースであればあるほど面白さがあります。すべての問題は多面的に見ることが可能です。ある方向から見ると解決不能な闇でも、違う方向から見ると可能性が見える。カウンセラーは例えその周りのすべての人が希望を失っても、最後まで可能性を信じ見つけようと努力する存在であるべきです(と師匠から学びました)。たとえ殺人犯であっても、その人の真面目さ、物事を考える集中力、忍耐力、努力の大きさなどが裏目に出て事件に至ったという風にも見ていくのです。
臨床心理士になるための、私の場合の道筋はこんな感じです。某国立大学教育学研究科の臨床心理士指定大学院に進み、大学院時代に自殺電話相談、中学校相談員、某精神病院のデイケアスタッフとして働きました。博士課程に進学すると臨床心理士を取得してから某病院心理療法士、スクールカウンセラーを数校、児童養護施設の心理士など、大学院の指導教授経由の仕事を文字通り「来るもの拒まず」こなしていって経験を積みました。
一日のスケジュールとしては、朝から非常勤の臨床活動、夕方に大学に戻りご飯を食べた後、事例検討やメソッドの勉強会が毎日夜7時から9時ごろまであって、それが終わった後に研究をし、終了後に彼とデートをする毎日(いつ寝ていたのだろう?)。その合間に競技ダンスの練習をし、週末は試合にでるといった日々でした(実は今も競技ダンスのセミプロをしています)。
この仕事に就くとは高校生の時には全く考えてもいませんでした。希望していた職に就けずに流れついたのですが、現在ではこの職に出会えて本当によかったと思っています。高校生の皆様には、もし挫折しても、だからこそ出会える道もあるとお伝えしたいです。
生田 倫子(いくた みちこ)
神奈川県立保健福祉大学准教授
臨床心理士
日本ブリーフセラピー協会常任理事
内閣府青少年インターネット環境企画分析委員
第91号 の記事
2017年10月1日発行