故若山弦蔵さん(南1期)六華だより掲載記事のご紹介
会報発行委員会思えば遠く来たもんだ
若山弦藏(南1期)
拓銀に勤めていた父の転勤で生まれ故郷の旧樺太大泊町から札幌に移ったのが昭和13年。以来東京に来るまで20年近く住んでいたのが、札幌市南10条西13丁目でした。
幌西小学校を卒業して札幌二中の入試に合格したのが昭和20年の春。あの頃は小学校から中学校へ進むのに試験があったんです。そう、小学校は国民学校という名前になっていて、私達小学生は少国民と呼ばれていましたっけ。
当時の札幌には公立の中学校が5校ありました。札幌一中、札幌二中、市立中が男子校で、庁立高女と市立高女が女子校。
昭和20年。太平洋戦争は悲惨な結末を迎えつゝありましたが、その実情は国民にしらされないまゝ政府は5月のドイツ降伏後も戦争を続けることを表明。一度も空襲を受けることがなかった札幌に住む私達は相変わらず最後には神風が吹いて勝利することを信じていたんです。3月と5月の東京大空襲や沖縄での悲惨な敗戦も実態は知らされないまゝ毎日のように超高空を飛んでくるB29の機影をキラキラ光ってきれいだな・・・などと思って見上げていたものでした。空襲はありませんでしたが当時の食料不足の深刻さは今でもよくおぼえています。米も麦も手に入らなくなって南瓜とじゃがいもが主食になっていた頃、拓銀に勤めていた父が、子供のためにと時々持ち帰ってきた小さな団子のようなもの。灰色で何の粉を使ったのかわからないシロモノでしたが、それが一寸した楽しみでした。父は銀行の食堂での昼食の汁だけを飲んで中に浮かんでいる団子をハンカチに包んで持ち帰っていたんです。日曜日になると何キロもはなれた所に借りた畑に出かけて僅かばかりの野菜を作る、そんな日々の中で体力を消耗していった父は敗戦の翌年2月過労と栄養失調で文字通り骨と皮の状態で亡くなりました。53歳でした。「定年になったら生まれ故郷の青森に帰って百姓をやる、そうすれば食べものに困ることはないから・・・」生前口ぐせのように言っていた父。ですから父があと数年健在で定年を迎えていたなら当然息子の私も青森に移住していたわけで、今日の私は無かった。人生は面白いものですね。
さて、勝てるはずが無いのを知りながら始め、国の大半を焦土と化し、おびたゞしい数の国民の命を奪って、結局は敗けるべくして敗けたバカな戦争は、昭和一けた生まれの私達に戦前、戦中、戦後それぞれの時代にめまぐるしい影響をもたらしました。
まず小学校、入学した時は尋常小学校でした。戦争が始まると国民学校と名前が変わり中学は入学した時が旧制の中学(5年制が4年制に変わっていました)敗戦後はアメリカ占領軍の指導で6,3,3,4制が導入されて小学校から中学校までが義務教育となって私達は新制中学生となり、高校に進む時には入学試験ということになったのですが、私達の学年は試験なしで新制高校生となりました。学校の方は一中が、札幌第一高等学校、二中が札幌第二高等学校と名前を変えました。
そして、私達が二高の3年生になる前にこれも占領軍の指導でショッキングな改革が行われました。男女共学制度です。今は当り前の男女共学ですが、「男女7歳にして席を同じくせず」式の教育を受けてきた私達にとっては革命的な出来事でした。しかも、この男女共学制度と共に行われたのが、札幌の街を四つに区切って、男女共それぞれの住居に近い高校へという制度。都合の良い事に公立の一高と二高の男子校、市立女高と庁立女高の女子校、この四つの学校の地理的な条件がピッタリだったんですね。かくして、札幌一高は札幌南高、二高が西高、市立高女が東高で庁立高女が北高とうまい具合に東西南北そろったわけです。と言うわけで私は旧制二中時代から5年間通った校舎に別れを告げて、札幌南高校第1期生ということになった、つまり3年生の1年間だけの南高生です。
尋常小学校から始まって国民学校、旧制中学、新制中学、新制高校そして高校最後の1年間は男女共学とめまぐるしくふりまわされた学校生活でした。建物は新しくなりましたが昔のまゝの場所に校舎のあるのが嬉しいですね。1年目の南高に校歌はまだありませんでした。二中から来た私は一中の校歌は知りません。同窓会に出席する度に、私の知らない南高校歌が歌われ、旧一中、一高出身の方々による、これも私の知らない旧一中校歌や応援歌が歌われるシーンでは、やや淋しい思いをかみしめるしかない・・・そんな札幌南高校第1期卒業生は今年なんと83歳。
おかげさまで何とか元気でラジオの仕事を続けて居りますが、世の中なにやらイヤーな雰囲気が漂い始めている今日この頃、バカな政治家共がまたバカな戦争に踏み込んだりしないようしっかりと監視しましょう。
二度と戦争はゴメンです。
憲法九条を守りぬきましょう!
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若山弦蔵さんのご冥福を心よりお祈り申し上げます。