六華だより(公開前確認版)

お山のイラストレーター

第96号

平田美紗子(南47期)

 成長が早くほんのり甘い樹液も楽しめるシラカンバ、寒さに強く木材としての利用価値が高いトドマツ—————。北海道の樹木をイラスト入りで紹介する「北海道の木のえほん」が、林野庁北海道森林管理局のホームページに連載されている。同局総務企画部企画課事業企画係長、平田美紗子さん(南47期)が、札南卒業後の母校・北大農学部の教授陣の監修のもとに水彩で描いた。森に樹木の特徴やその周りで暮らす動物たち、木材としての利用法などの興味深い話を、緻密なイラストで分かりやすく解説してくれる。東京勤務時代は、激務の間を縫って「お山ん画(おやまんが)」と名付けたフルカラー漫画を同庁情報誌「林野」に連載した。お堅いと思われがちの“お役所”で、柔らかなタッチの“お山ん画”を描き続ける平田さんを訪ねた。

取材/文 佐藤元治(南38期)

平田さんと、平田さんの描く漫画の主人公リン子

 札幌市中央区宮の森。トドマツ集成材の太い柱が印象的な吹き抜けのロビーに、水彩で描かれた女性森林官の姿があった。「お山ん画」のナビゲーター、リン子の等身大パネルだ。「林野庁」のネーム入りヘルメットをかぶり、腰にナタとノコを二丁刺しし、足裏一面にスパイクが打たれた地下足袋を履く姿は、森林官だった自分自身がモデル。「まさに、この格好で山の中を歩き回っていました」。北海道森林管理局の本庁舎で、出迎えてくれた平田さんが声をはずませた。

 

 北海道森林管理局は北海道の面積の3分の2を覆う森林を守り育てるとともに、その森林の半分以上、3万㎢余りの国有林を管理運営している。平田さんの仕事は、多くの野生動物が暮らし、大きな恵みを与えてくれる森の役割を、広く伝えていくことだ。その一環として昨年夏から、森林や林業をテーマに描いてきた漫画から季節にふさわしいものを選び、庁舎1階のロビーでイラスト展をはじめた。

リン子の絵日記「トチノキ」=ポプラ社
「みぢかな樹木のえほん」掲載

 その1枚がトチノキを扱った漫画。トチモチづくりに焦点を当て、山の渓谷沿いでよくみられることや、灰汁抜きが必要なこと、保存が効くのでかつては凶作時の非常食としても役立っていたことを分かりやすく紹介。国内で見られる代表的な樹種30種類を紹介する「みぢかな樹木のえほん」(2018年3月、ポプラ社)に収められている。

 「絵が描いてあると、イメージしやすいですよね」。平田さんはさらに、原画に描いていないことも教えてくれた。ドングリやブナは豊作と不作がはっきり分かれるが、トチノキはそれほど差がないこと、灰汁があって食べにくいが、だからこそ長期保存が可能なこと。「クマやシカも他に食べるものがなくなると、普段は見向きもしないトチの実を口にするのです」。聞くと、国有林の現場責任者・森林官を3カ所で通算5年間務めたそうだ。さすが、話題が尽きない。

 

 森林関係の漫画を描き始めてちょうど5年。きっかけは林野庁本庁の「渉外広報班」への転勤だったという。大臣会見やプレスリリースの準備など、さまざまな調整が求められる激務が続く中、「ぜんぜん違った面白いことをやりたい」と提案。同庁情報誌「林野」に「お山ん画」が連載されることになった。「軽いノリで始めたのですが、時間的にはすごく大変でした」

 初出は20155月号「山歩きの基本は足下から」。月1ペースで見開き2ページ、フルカラーで細かく丁寧に描くのに30時間は要する。テーマの選択、ストーリー構成、取材の時間も必要だ。漫画に取り組むのは深夜、早朝、土曜日曜。本庁勤務でもあり超多忙だったが「絵を描くことが楽しかったので、苦にならなかった」と振り返る。

 

 絵は水彩と色鉛筆、最近はカラーマーカーも活用する。描くことは幼少時からの楽しみだ。小学1年生のとき、写生大会で描いた消防車の絵がクラスの代表として選ばれた。自然も大好きだった。両親ともにキャンプ好きで、自身の愛読書はファーブル昆虫記。「小さいころから将来は『画家か、生物学者に』と思っていました」

北海道森林管理局1階ロビーでの原画展。
林業の今を伝える漫画も描いた

 札幌南高校ではなぜか「友人の誘いで、いつのまにか吹奏楽部へ」。進学時に美大も考えたが「生物の勉強は美大ではできない」と北大農学部に進み、大学院ではキノコの研究に打ち込んだ。「森のすべての生命体を支える大切な存在がキノコなんです」。その傍ら水彩による植物画も描き続けた。薄い色を塗り重ねて淡く表現する水彩画は、植物の柔らかさを表現するのに最適だという。

駆け出し森林官のころに描いた
AKAYAプロジェクトの活動レポート

 森にかかわる仕事を続けようと2004年に林野庁に入庁。2年目に相俣(あいまた)森林事務所(群馬県みなかみ町)に着任し、初めての「森林官」の仕事を務めることとなった。関東森林管理局利根沼田森林管理署の出先機関のトップの役割。今でこそ森林官1人だけという事務所も増えたが、当時はそれぞれ基幹作業員というベテラン現業職員が勤務していた。

「何十年とその地域を守ってきた人たち。山歩きの基本から、何もかも教えられ、鍛えられました」。

 同事務所轄地域の利根川の支流、赤谷川上流域の約1万ヘクタールを対象にしたAKAYAプロジェクトも興味深い取り組みだった。地元住民、自然保護団体、森林管理局の3者が一堂に会して生物多様性の復元と持続可能な地域社会づくりを図ろうという、当時は全国初の試みだった。まだ林野庁と自然保護団体との間のわだかまりが色濃く残っていた時代だったが、入庁したばかりの平田さんだからこそ、過去の経緯にとらわれずに、さまざまな人の間に入っていけた。有志フィールド活動には必ず参加。絵入りの「活動レポート」を毎月作成し、参加者に配布した。

「結構、みんなしっかり読んでくれました。『(動物の)しっぽはこんなに長くないぞ』とかツッコミも含めて」。いろいろな人たちと気軽に話すきっかけを絵が提供してくれたという。同プロジェクトには今も時折、手弁当で参加、絵入りの活動レポートも執筆している。

 

北大の先輩だった夫を病気で亡くし昨年春、実家のある札幌に小学3年の長女、小学1年の長男と一緒に戻ってきた。地方の森林管理局では初めてとなる在宅勤務が認められ、午前中に出勤して打ち合わせや事務仕事などをこなした後、午後からは自宅でイラストを描く日もある。週末は自ら描いた漫画とともに各種イベントに参加し、森林の大切さをPRする。

 

 漫画は、森林関係のパンフレットや森林教室の資料、展示データなどとして著作権料なしで活用してもらっている。日本の森林が直面する問題を広く知ってほしいからだ。「こんなにたくさんの木がある豊かな国なのに、なぜ外国から多くの木を輸入しなければならないのでしょうか」。面積の3分の2が森林におおわれた北海道でも、道産材の利用は限られ、多くは輸入木材が使われている。間伐されずに放置された人工林も目立つ。「人工林は、畑と同じ。50年に一度の収穫を迎えるためには、手入れが必要なんです」。化石燃料は生成までに数百万年を要するが、林業は1世代で資源になる。持続可能な産業である林業の再生に向けて、これからも絵筆を振るいたいと語る。「いつかストーリー漫画を描きたい」と平田さん。イメージするのは北海道の農業高校を舞台とした漫画・銀の匙。「林業版が描けたら面白いですよね」

★リンク集★

北海道の木のえほん
https://www.rinya.maff.go.jp/hokkaido/square/kinoehon/index.html

林業漫画「お山ん画」
https://www.rinya.maff.go.jp/j/tosyo/attach/pdf/event-14.pdf

漫画で学ぶ森林・林業・木材産業の魅力
https://www.rinya.maff.go.jp/j/tosyo/event.html#manga

平田美紗子(ひらた・みさこ)プロフィール

林野庁北海道森林管理局総務企画部事業課事業企画係長

札幌市生まれ
札幌南高校、北海道大学農学部・大学院農学院森林科学科を経て2004年、林野庁に入庁し相俣森林事務所(群馬県みなかみ町)のほか、静岡森林事務所(静岡市
葵区)、表富士森林事務所(静岡県富士宮市)で森林官を務める。育児休業ののち林野庁渉外広報班の後、現職へ異動までは林野図書資料館で全国の図書館と連携した情報発信に務める。

「みぢかな樹木のえほん」(ポプラ社)のほか「ぱっと見わけ観察を楽しむ野鳥図鑑」(ナツメ社)、「見よう、せまろう、とびだそう! しぜんガイドブック 校庭のかんさつ」(ほるぷ社)などの挿絵も担当している。